コラム

大企業×ベンチャーは銀の弾丸ではない


長野 泰和

KLab Venture Partners株式会社
代表取締役社長 代表パートナー

VCキャピタリスト

2016/03/02 14:00



ベンチャーユナイテッドの丸山さんよりバトンを頂きました、KLab Venture PartnersというVCを2015年末に設立した長野と申します。

 

私は4年前にKLab株式会社とSBIインベストメント株式会社の合弁会社であるKLab VenturesというVCを設立し、主にシード・アーリーステージのスタートアップへの投資活動を行っていました。昨年末には投資先のソーシャルワイヤー(3929)が当社投資先として初のIPOを果たすなど事業として軌道に乗ってきたタイミングでしたが、さらにシードラウンドで付加価値の高いVCを創っていきたいという思いからKLabの100%の小会社であるKLab Venture Partnersを新たに設立しました。

 

私がVCという仕事に関わってから4年ほどの年月の中でスタートアップに対する世の中のモメンタムは大きく変わりました。アベノミクスによるマクロトレンドの変化、新たなVCやCVCの設立増加、海外においてはユニコーンと呼ばれる時価総額$1B以上の巨大なスタートアップの誕生など、目まぐるしく変化する市場環境の中でアントレプレナーの存在感が日々増えていると感じています。昨年末からは中国経済の失速、米国のゼロ金利政策解除、地政学リスクの増加など冷水を浴びせる事象はありましたが、日本経済におけるイノベーションの中心にスタートアップであり、その重要性が減退することはないと思われます。

 

■オープン・イノベーションブームの到来

そのような市場環境の中で近年注目されているテーマの1つが「オープン・イノベーション」です。私も仕事柄多くの事業会社の方々とお話することが多いですが、この「オープン・イノベーション」に取り組まなければならないという話題になることがとても増えました。実際にKLab Venturesの投資先でも事業会社と資本業務提携をするケースが非常に増えてきており、資金調達においてもVCから資金を調達するよりも数として多くなりつつあるのが実態です。

 

事業会社にとっての「オープン・イノベーション」とは、自社でなかなか進まなかった新規のビジネスの推進がスタートアップの力を活用しながら進められるメリットがあり、スタートアップからすると大企業のリソースを活用し自社のサービスを伸ばせられる、など双方にwin-winなモデルであり、今後増えていくべき素晴らしい取り組みであることは間違いありません。

 

ただし、うまくいったケーススタディは広まりやすいので勘違いしそうですが、実際に大企業とスタートアップの連携の取り組みが失敗に終わるケースが散見されることも事実です。特に連携の一貫でスタートアップに対して大企業が資本業務提携を含めて事業を進める場合は、資本政策の後戻りがきかないため失敗した場合のリスクはスタートアップ側にも大きいものがあります。

一般的にスタートアップにエクイティファイナンスで資金を供給するパターンとして、VCによるキャピタルゲイン目的の投資と大企業との資本業務提携などの戦略投資の2つがあると思いますが、この2つを比較すると、

 

VCの場合は、

・キャピタルゲインという目的でシンプル

・ポートフォリオを組んでいる場合が多い

 

大企業の戦略投資の場合は、

・事業提携という目的で複数部署間の連携が必要となる場合が多い

・基本的には1つの目的に対して1つの会社と提携する場合が多い

 

上記のようなポイントが挙げられます。特にもし仮にうまくいかなかった場合においてVCはone of themの案件として粛々と対応されることなることも多いですが、事業会社の資本業務提携の場合はその会社にとってはonly oneな案件であり、複数部署に利害関係者がいることや担当者の責任問題などに発展してしまうこともあります。期待感が大きい分うまくいかなった場合の落とし所がより複雑になってしまう潜在的な要素があります。

 

■オープン・イノベーションの留意点

これらを踏まえて大企業がスタートアップと資本業務提携を展開する際のポイントをまとめてみたいと思います。

 

1.(過度に)期待しない

成功確度が高いプロのVCであっても投資したスタートアップが成功(仮にIPO)する確率はかなり低いです。シードラウンドのVCだと10社に1社でもIPOすれば十分という確率だと思います。そのような前提のもとスタートアップとの連携を過度に期待し過ぎない、ということも大事かと思います。例えば投資をするにしてもマイルストーン投資(KPI等を設定して達成に応じて複数回に分けて投資する手法)をするなどリーンに始めてダウンサイドリスクをケアすることも1つの手法かもしれません。

 

2.スピード感

スタートアップには社内調整コストがほとんどないため意思決定や事業の進め方が一般的な大企業と比べてかなりスピーディーです。このスピード感のギャップがあるとお互いの事業連携がうまくいかない可能性があるので事前にすり合わせておくべきです。社内の意思決定プロセスにおいてスタートアップとの連携の担当者及び部署にはある程度の意思決定権を付与するなどの工夫が必要かと思います。

 

3.担当者を変えない

これは業務提携におけるあるあるネタですが、意思決定をしてくれた前向きな担当者が部署異動で代わってしまい、新しい担当者とうまくいかないこともよくある話です。組織でビジネスしているとはいえ窓口の相手との人間関係はビジネスに大きく左右されます。

スタートアップサイドからしてもその組織がどれくらい頻繁に組織変更があるのかなど確認しておいた方がよいでしょう。

 

4.出来ない約束はしない

一般的にアントレプレナーはビックマウスでビジョンを語る傾向にあり(もちろんそれが望ましいのですが)、大企業は確実に達成できる計画を語る傾向にあります。これは大企業とスタートアップの文化の違いによるものだと思いますが、例えばスタートアップが提携先の側に過去に提出していた割りとポジティブシナリオの事業計画などが社内で一人歩きし、後々にその差異がトラブルに発展することもあります。社内の担当者がその説明責任を求められ、回答できなくて紛糾するみたいな場面に発展すると大変です。事業計画のすり合わせにおいては色んなパターンを事前に議論しておき、後々社内でチェックされても問題のない現実的なものを用意しておくということも無用なトラブル回避になるかと思います。

 

以上「大企業×ベンチャー」という昨今のホットトピックスについて、ネガティブシナリオをいかに回避するかというテーマでいくつかポイントをまとめさせて頂きました。資本業務提携においてはもし失敗した場合に大企業からすれば1部署の1事業が立ち上がらなかったというだけですが、スタートアップからすると会社の存亡を懸けた致命的な失敗になってしまうので、慎重に精査しながら進める必要があります。

 

本稿が今後日本において「オープン・イノベーション」がさらに加速するにあたっての一助になれば幸いです。

 

 



●関連企業

KLab Venture Partners株式会社


長野 泰和

KLab Venture Partners株式会社
代表取締役社長 代表パートナー

KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。18社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にはシードに特化したベンチャーキャピタルであるKLab Venture Partnersを設立、同社代表取締役社長に就任。


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