コラム

IPOにおけるVCと発行会社の関係と上場後の資本政策について考える


丸山 聡

ベンチャーユナイテッド株式会社
ベンチャーキャピタリスト

VCキャピタリスト

2015/12/02 14:00



はじめまして、ベンチャーユナイテッド株式会社でベンチャーキャピタリストをしている丸山と申します。この度、株式会社アイスタイルの取締役CFOであり、株式会社 iSGインベストメントワークスの取締役マネージング・ディレクターである菅原さんからバトンを受け取り書かせて頂いております。

 

当社は1998年2月に設立した株式会社ネットエイジの投資事業を源流として、組成した複数のベンチャーキャピタルファンドを中心として投資活動を行っております。これまでに投資先企業からは株式会社ミクシィや、株式会社エニグモ、ライフネット生命保険株式会社、株式会社gumi、株式会社メタップスがIPOを果たしているなどの実績があります。

外部の投資家の方々から資金をお預かりしてベンチャーキャピタルファンドを組成して、投資活動を行っているという部分では、これまでのバトンをつないでいただいているCVCや事業会社の方とは投資への考え方などに少しズレがあるかもしれませんが、そのあたりは、そうした背景を踏まえてご理解いただけましたら幸いです。

 

また、一方で、当社の親会社であるユナイテッド株式会社自体が上場企業でもあり、もともと当社の源流である株式会社ネットエイジも複数のベンチャーキャピタルからの出資を受けて上場を果たした会社であるという側面もふまえて、「IPOにおけるVCと発行会社の関係と上場後の資本政策について考える」というテーマで書かせていただければと思います。

 

■VCIPOによってどのようにリターンを得るのか

ベンチャーキャピタル・ファンドは、未上場企業へ投資をして、IPOやM&Aなどによって投資した株式を売却し、それによって収益をあげ、ファンドの出資者に対して分配を行うという構造になっています。

ときには投資した企業が、新たに資金調達を行うなどして株価が上がることで、保有する株式の評価額があがる(=未実現利益が生じる)こともありますが、個人的にはファンドの出資者の方々にいくら分配されたかが重要であって、未実現利益はあくまでも目安でしかないと思っています。

極論すれば、未上場企業は株式の流動性がほぼない中で、1株でも譲渡なり増資なりで、高い株価を付けてしまえば、企業価値は膨らむことになり、それによって生じる未実現利益にどんな意味があるんだろうかと思うことがあります。

流動性が確保され、全株式が売却できる状態で形成される株価をもとに算出される企業価値こそが本来のあるべき企業価値であり、それは株式市場において上場することによってはじめて形成されるものではないかと。逆にベンチャー投資における企業価値というのは数年先の大きな成長を織り込んだうえでの特殊な株価形成をしているという事実を踏まえておく必要はあるかと思います。

という余談はさておき、VCは投資先が上場したとしても 自動的にリターンが生じるわけではなく、保有する株式を売却していくかというところが重要になってきます。

ベンチャーキャピタル・ファンドの出資者は基本的には、未上場企業に投資することにまつわるリスクをとっていて、それがIPOなりM&AなりというEXITによってリターンを得るという期待をもとに出資をしています。

このため、投資先が上場したあとの株式市場における価格変動リスクなどは極力受けないようにしながらリターンを確保されることを期待しているのが一般的だといえます。(このあたりはもちろんファンドの出資者それぞれで違うのはいうまでもありません)

また、ファンドのような形態ではなく自己勘定からの投資をしているCVCや事業会社などでは、それぞれの会社の投資スタンスや売却に関する方針などもありますので、そこは個別に事情などがあると思います。

しかし、ベンチャーキャピタル・ファンドという形態を通じてリスクマネーを供給するためには、投資先企業が上場した場合には投資先企業の株式売却を通じてリターンを確保していかなければならないという構造にあると考えていただければと思います。

このため、ベンチャーキャピタル・ファンドは投資先企業のIPOを実現する場合には、いくつかの 方法によって株式売却を行うことになります。

・IPO時などの売り出しによる売却

・株式市場を通じての売却

・機関投資家や金融機関などへの時間外取引などを通じたブロックトレードによる売却

まずIPO時などの売り出しによる売却については、発行会社との間での協力関係が必要となります。株式市場による価格変動リスクがなく、ある程度の株式数を一度に売却できるというメリットがある一方で、公開価格の価格決定とその後の初値形成がどのようになるのかという不確実性の部分やそもそもどういう株価が公開価格として適切なのかという問題や引受手数料についても考慮しなければならないという部分もあります。それ以上に何よりも発行会社の公募増資による資金調達や公開時の流動性をどの程度確保するのかというところとの兼ね合いとなり、発行会社の協力なくしてはなしえない選択肢となります。

残る2つについては上場後の売却となりますが、最近のIPOではロックアップと呼ばれる売却制限が課されるケースが大半ですが、90日間の売却制限(ただし初値もしくは初値の気配値が公開価格の1.5倍程度を超える株価形成となった場合には売却可能)という取り決めを主幹事証券会社と行う任意ロックアップと、上場の直前期ならびに申請期の増資による株式を取得した場合に180日間売却ができない制度ロックアップがあります。

こうしたロックアップ制度を導入しているのにはいくつか理由があるのですが、一方で、課題としては一般的に上場後の売買高推移にあります。

以前に私が調べたところでは、上場直後の2週間程度の売買高は比較的高水準を維持しているものの、その後1か月、3か月と経過するにつれて売買高が減少していき、6か月を経過するころには一部の人気になる銘柄を除いては1日の売買高が発行済株式総数の1%未満(場合によっては0.1~0.3%前後)となってしまいます。

こうした売買の状況となってしまうと、株式市場を通じて保有する株式を売却することが難しいという部分もあります。仮に3%程度の株式を保有しているVCであれば、1日あたり発行済株式総数の0.3%の売買高しかない状況では、単純に10営業日で売却が完了とはいきません。

市場を通じた売却においてVCは、IPOしたのだから発行会社との関係がなくなるという姿勢で、株価形成を考慮せずに売却を進めることはするべきではないと私は考えます。

VCとして投資した先がIPOを実現してリターンを得られればそれで発行会社との間の直接的な関係性はなくなります。しかし、そうした姿勢で発行会社とVCが関係を続けていてはいわゆる“上場ゴール”のような会社を生み出すことにもつながりかねないのではないかと思います。

VCから出資を受けて、上場を目標にするのではなく、上場を経てさらに大きく成長し、世の中を変えていくという志があるからこそ、VCは投資すべきであり、そうした会社に対していかにリスクマネーを供給できたかという部分がVCとして評価されるべき1つのポイントではないかと私は思っています。

もちろんファンドのパフォーマンスは重要な指標だと思いますし、M&Aを通じて既存の大手企業にイノベーションを起こすという部分も重要な点だと思いますが、それと同じくらいに成長を続けて社会を変革し続けるような語り継げる会社への投資ということもVCにとっては重要な点ではないかと思っています。

そう考えるとVCとして上場後の売却のタイミングで、発行会社の株価形成に著しく影響を与えるような市場を通じた売却手法は取るべきではないのではないかと考えますし、相場の状況を見ながら指値や成り行きの注文を適切に出したり、計らい注文などの証券会社の機能も生かした売却手法も組み合わせながら売却を進めていくことが大事なのではないかと思います。

もちろん、流動性(売買高)がある程度確保されていれば、大胆に売却を進めていても株価形成に影響を与えないケースもありますので、あくまでも市場の動向をみながらいかに適切に売却を進めるのかという部分が重要だと思います。

そうした意味では、機関投資家や金融機関などへの時間外取引などを通じたブロックトレードによる売却というものがVCと発行会社の双方にとってメリットが多そうではあります。

しかしながら、新興市場へのIPOの大半が数十億~100億円程度の時価総額となってしまう状況では、機関投資家が投資の対象とならないケースが多く、また、金融機関へのブロックトレードも流動性が低かったり株価変動幅が大きいケースではディスカウント幅は拡大することになるケースもあり、そうなると市場での売却した方がリターンが大きくなるのではないかということにもつながりかねないという側面もあります。

もちろん証券会社のセールス部門を通じて投資家へのブロックトレードの可能性を模索するなどもできますが、現在の日本の新興市場の参加者の多くが個人投資家であるという事実を考えると、現実的な選択肢となりうるには課題は多いなと思います。

このほかには最近では、東証マザーズ市場から東証1部へ短期間で指定替えをする企業も増えていることなどから、そうした指定替えのタイミングなどで売出によって売却機会を創出してもらうなども考えられます。

しかし、こうしたIPO時や上場後の売却には、発行会社の協力も得る必要もあるというところが実際のところではないかと思います。


丸山 聡

ベンチャーユナイテッド株式会社
ベンチャーキャピタリスト

大学卒業後、証券会社や上場企業の経営企画部門、銀行系VCでのM&Aアドバイザーなどを経て、未上場企業でIPO準備責任者としてIPOを実現させ、2007年から株式会社ネットエイジグループ(現ユナイテッド株式会社)入社、2008年夏よりベンチャーキャピタル部門に携わり、現在はベンチャーユナイテッド株式会社にてベンチャーキャピタリストを務める。


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