コラム

未上場の資金調達、上場時の資金調達、そして上場後の株価形成における意識ギャップ


菅原 敬

株式会社アイスタイル
取締役 兼 CFO

CVC、事業会社

2015/09/02 14:22



はじめまして、株式会社アイスタイルで取締役CFOであり、同時に株式会社アイスタイルキャピタルで代表取締役社長を務める菅原と申し上げます。この度、アイ・マーキュリーキャピタル代表の新さんからバトンを受け取り書かせて頂いております。

 

当社グループのCVCである株式会社アイスタイルキャピタルを設立したのはつい先日の2014年11月、親会社本体でベンチャー投資を始めたのも2010年頃からなので、まだまだベンチャー投資においては5年ほどしか経験をしておらず、諸先輩方に肩を並べて記事を書かせて頂くのは非常に恐縮ではあります。

 

しかしながら折角頂いた機会ですので、あくまで個人的な見解になりますが、上場前後のCEOやCFOからよく相談されるトピックである、「未上場の資金調達、上場時の資金調達、そして上場後の株価形成における意識ギャップ」について書かせて頂けたらと思います。

 

 

■未上場時における資金調達

未上場時においては、株主が合意してくれれば、大きな設備投資(インターネット企業においてはその殆どがソフトウェア開発)を行い大きな赤字を出してでも、事業成長を達成すれば良い世界です。ウェブサービスの主要KPI(重要業績評価指標)の成長であれ、マネタイズモデルの収益成長であれ、成長にはそのモデルに適した必要資金があります。

 

そのためには、起業家はこれまでの資金調達トラックレコードや事業成長に必要な資金使途とその必要資金額およびその結果としての事業計画をまず土台として、資本政策とセットで想定できる最大の企業価値を算出し、少しでも創業者シェア低下をしないように最大金額の調達を狙います。

 

起業家は最大の金額を設備投資に投下すれば、より多くの事業成長を実現できる可能性が最大化出来ますし、大型調達=起業家(起業チーム)の勲章、となりがちな訳です。

 

 

 

■上場時での資金調達

多くの起業家にとって、上場とはゴールではないですが、起業家としての最大の勲章の一つになり得ます。同じく、上場以降の時価総額も起業家の勲章とも言えます。したがって、実際の当該企業の収益状況や事業計画の実態と乖離した世界観で、「より高い公開価格で上場したい」というモチベーションが働いているケースも多いように思えます。

 

しかしながら、以下の2点において過度に高すぎる公開価格での上場には意味がないのではないかと思う時があります。

 

第一に、上場時に公募調達をする場合、その資金調達は非常に資本コストの高い手段と言えます。まずは非常に高いIPOディスカウントに加え、シンジケート団証券会社に対する手数料。これらは(よっぽどの大型上場を除いて)長い業界慣習により、その他どの資金調達手段よりも圧倒的に効率が悪い調達手段です。起業家とCFOは、上場時の効率の悪い公募調達の額を最大化するのは果たして賢明なのかは良く吟味する必要があります。

 

第二に、公募価格(つまり業界用語でいう発射台の高さの高さ)が高過ぎると、上場後にそれ以上の株価推移を維持することが出来ずに、多くの固定化された株主を作ってしまいます。それら株主にとってその会社の株式はいわゆる塩漬けな状態になっているということです。上場後の事業計画とその確度(というか成長への自信?)に応じてどれだけ株価を上昇させることができるかのバランスで適正な公募価格を設定すべきなのではないでしょうか。

 

したがって、ようやく売却のチャンスが見えてきた上場時の売出に参加するベンチャーキャピタル等投資家(ロックアップ掛かってない場合)にとって、上場時の公募価格を最大化することは自分達にとって最大の関心事であるあるものの、起業家(投資先企業)にとって公募価格の最大化は必ずしもベストではないという利益の不一致が起き易いとも言えます。

 

 

■上場後の資本市場との付き合い方と株価形成

多くの新規公開企業が上場する新興市場においては時価総額が小さく、また株式の流動性が低い事も多く、セルサイドの証券アナリストがカバレッジしてくれる可能性も殆どゼロに近しい状況ですので、上場時や直後は数多く入る機関投資家ミーティングは少しずつ減っていき、個人投資家が中心の売買により日々の出来高は小さくなっていく傾向があります。

 

すなわち、圧倒的な成長率を上場直後の四半期発表から繰り出し、更に小手先レベルではない大きな成長可能性を感じさせるIRニュースを数多く繰り出す事が出来るような状態を除き、多くの上場直後の企業は上記の株式売買状況により上場時からジリジリと株価を下げる事になります。上場時の公募価格や上場初値が当該企業の実力を超えている場合の株価下落は尚更の可能性もあります。

 

したがって、適正な価格で上場し、小手先のIRニュースで無駄な期待値を上げず、地道に四半期決算で着実に資本市場からの信頼を得ていく事が、安定的に株価を上げる手段なのではないでしょうか。

 

 

■長い目でのファイナンス戦略の必要性

ではどのように上場前から上場後に向けて資金調達や資本市場との付き合い方を上手くリンクさせることができるのでしょうか。

 

上場時には自社の上場後事業計画に応じた適切なレベルに公募価格を設定し、また上場時の公募ボリュームはあまり確保せず、はなから上場を資金調達イベントとして捉えないという割り切りも一つの選択肢になります。

 

その場合、例えば東証一部・二部への市場変更時など上場後に、上場時よりも圧倒的に高い調達効率で公募調達が可能な公募(PO)を行ったり、業務提携パートナーの外部企業や、投資会社へPIPEs(Private Investment in Public Equity)といった形式で私募の形で第三者割当をしたりする、などの手法があり得ます。

 (注)PIPE(s) https://ja.wikipedia.org/wiki/PIPE

 

一番肝要なのは、上場準備段階から上場後の資本市場との付き合いや資金調達を想定しながら、単に事業計画という意味でのエクイティストーリーを構築するだけではなく、長い目でのファイナンス戦略を構築することではないかと考えています。

 

 

●関連企業

株式会社アイスタイル


菅原 敬

株式会社アイスタイル
取締役 兼 CFO

1996/04 アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社) 入社
2000/01 アーサー・D・リトル (ジャパン) 株式会社 入社
2000/07 株式会社アルトビジョン 監査役就任
2001/09 株式会社アイスタイル 取締役就任
2003/07 株式会社アルトビジョン 取締役就任
2008/02 株式会社コスメ・コム 代表取締役就任
2011/04 株式会社アイスタイル 取締役経営管理本部長就任
2011/04 株式会社コスメ・コム 監査役役就任


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