コラム

ベンチャー「あるある」傾向と対策


菅沼 匠

弁護士法人クレア法律事務所
弁護士・公認会計士

サポーター

2015/06/03 14:00



はじめまして。菅沼と申します。デフタ パートナーズの山口さんからのバトンを受けて投稿します。

私は弁護士&公認会計士として法律事務所に所属し、ベンチャーや投資会社の顧問を行い、他方で、自らもベンチャーの役員やエンジェル投資も行い、様々な視点から、ベンチャー企業には関与させて頂いております。

固い文書を書いても誰も読まないので、今回はベンチャー「あるある」の傾向と対策をバックオフィス側の視点にて、市販書籍には書かれていないことを少しだけ書きたいように書かせて頂きたいと思います。

なお、下記の内容は、今までベンチャーの方々と接して感じたものを一般論としてまとめたものであり、特定企業を指しているものではありません。また、様々なご意見もあるかと思いますが、あくまで私の主観も含むコラムである旨、ご了承くださいませ。

 

・最初の利益計画は下方修正。

最初に立案した利益計画は、夢を乗っけていたり、会計処理が整備されていないこともあり、実績とのズレが生じやすく、証券会社の指摘によりすぐに下方修正をするケースが大半です。この時に初めて、上場を目指すにあたり、売上10%・利益30%の基準という壁があることを実感することとなるかと思います。

下方修正とならない利益計画を策定するには、例えば、売上については既存事業と新規事業に分け、既存事業については過去の実績等を分析し、確実と思える売上を積み上げていく方向で作成し、新規事業については夢をのっけ過ぎず(むしろ、確実でないものは織り込まず、当たれば嬉しいくらい)作成した方がいいと思います。もちろん、上方修正をおこない過ぎてもよくないですが、「利益計画は投資家との間でコミットできる数字を作るもの」という意識からスタートして頂き、夢はのっけ過ぎず、謙虚に策定されることがよいかと思います。

 

・給与テーブルがない。

 多くのベンチャーでは給与テーブルが無いです。また、給与テーブルや人事評価制度を作っても、業務内容の変化や兼務が多いためか、きちんと運用させることは難しいです。実際、機械的に評価を行うよりも、少人数のうちは従業員を個別評価の方が適正な評価が可能なこともあるので、一概に悪いことではありません。

 給与テーブル等を導入する際には、テーブルが妥当かどうか、残業処理はどうするか、人事評価はどう設計するかなど悩む会社も多いです。社内に人事経験者がいる場合は別ですが、人事は大事ですので、制度を構築していく際には、優先順位を決め、労使間で合意がえられる形で試験運用を行いながら構築していくことが望まれます。

なお、述べるまでもないですが、社会保険の未加入や残業代の未払いなどの違法状態がある場合は、人事制度の構築うんぬんよりも、最優先となります。

 

・常勤監査役、最後はエイヤ!で決める。

 上場を目指す会社は常勤監査役を選任する必要があります。常勤監査役の選定の際によくポイントされるのは、

①経歴(その会社の業界人か、上場企業経験、資格はどうか等)

②報酬(会社が小規模な間は業務は少ないし、会社も資金不足のため、高額な報酬も払えないため)

③雰囲気(社風に馴染めるか)

あたりかと思います。会社側は、「役員」である以上、それなりの経歴等を求める上に、社風に合った方を選びたいのが常です。しかし、それなりの経歴等を持った方は安定して暮らしているので、ベンチャーの常勤監査役を積極的にやりたいという方はあまり多くはいませんし、高齢な方も多いため、若くてスピードにあふれたベンチャーの社風に合う方もあまりいません。また、前職の報酬が高いことも多く、報酬でも折り合いがつきづらいところです。

このように、マッチングが難しい領域のため、会社側も何人も声をかけ、最後は上場スケジュールとの関係で必要に迫られエイヤ!で決めるケースが多いです。なお、常勤監査役を探すルートとしては、紹介会社、証券会社、VC、顧問といったパターンが多い気がします。

 

・上場スケジュール、当初よりもズレる。

 スケジュールが当初よりもズレる理由は様々ですが、例として①業績、②社内体制の未整備、③訴訟等の紛争の発生、④株式市場の市況が悪い。があげられると思います。一番多い理由は①業績だと思います。業績が予定通りに伸びない場合は、新規性が高いビジネスモデルでなければ企業価値が付かず、上場時に意図した資金調達もできません。また、利益計画と実績のズレも生じ、審査期間が延長することにもなります。

他方で、「売上げはすべてを癒す。」という格言があるように、業績が順調に伸びていれば、社内体制の整備に充てる余剰資金も生じますし、多少の紛争が生じても会社全体への影響も薄まるため、上場スケジュールの遅延も生じづらくなるといえます。

様々な要因により、上場スケジュールはズレることがありますが、それはよくあることですので、精神的に病まずに証券取引所の鐘を鳴らすことを夢みてください。

 

・監査法人、どこも同じに感じて決められない。

・株主名簿管理人、どこも同じに感じて決められない。

・印刷会社、どっちも同じに感じて決められない。

いずれの業者も、ベンチャーは初めてお付き合いするということが多いと思います。各社の違いはありますが、お付き合いしてみないと実際分らないところもあります。もし、選定理由に悩んだ際には、最終的にはお世話になった程度や、動きの速さなどで選べば無難かと思います。

 

・会社の現金はお菓子箱の中。

最後に、これは私が書きたかったので書きました。「現金は金庫に!」と、思いますが、最初は社長の財布かお菓子箱に会社の現金は保管されていることがあります。紙コップに保管するケースもあり、現金の管理方法は味わい深いです。現金を多く扱うようになったり、監査法人が関わり出したりすると、金庫が登場します。

ちなみに、ここで金庫を語るのも変ですが、最初は手提金庫が登場し、管理部長等が定まる頃に中型金庫が登場し、中型金庫に銀行印、手提金庫に現金を入れておくというパターンが多いと思います。

 

 こんな感じで、「あるある」を書いてみると、足りないことを並べているような面も感じますが、ベンチャーに携わると、足りないものを構築していくこともむしろ醍醐味かと思います。

私はベンチャーで過去に一緒に仕事した人達と、作ったものを振り返り「最初は●●が無かったけど、今はあるよね。」等と語り交わし、会社を成長させてきたことを実感したり、当時の仕事仲間との関係を一歩進んだ「戦友」(?)のように感じることが好きです。

ベンチャーは新しい事ばかりでスピードも速いですが、それを乗り越え、是非、あの鐘を鳴らしてみて下さい!

 

【付録】

話は変わりますが、せっかくのコラムなので、士業らしく、気になる時事ネタも付け加えさせて頂きます。

 

・労働債権の時効期間、見直し

 今、民法改正により、時効期間を一律5年とする議論がされています。今まで、労働債権の時効は2年間でしたが、こちらも民法改正の影響を受け、5年とされる可能性があります。

 上場を目指すにあたり、過年度の未払残業代等の整理では、この2年の時効期間を参考として遡って支給していたかと思いますが、今後は5年となる可能性がある旨、ご留意ください。

 

・株価算定上「非流動性ディスカウント適用不可」の事例が出ました

  非上場会社の株価算定の際に、非流動性ディスカウントを勘案することは慣習でよくあります。しかし、平成27年3月26日の最高裁決定の事例では、収益還元法を用いた株価算定において非流動性ディスカウントは認めない旨の判断がされています。

理由としては、「収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない」ためとのことです。

「収益還元法」等を用いる際には、非流動性ディスカウントを用いることが妥当か否かは、慎重に検討するようにご留意ください。

 

・新株予約権信託と取引所ルール

  最近、新株予約権を信託化する流れが出てきています。信託化のメリットは、上場直前に入社した従業員等に対しても、行使価格が低い金額により付与できるという点です。他方で、取引所ルールで「公開前規制」というものがあり、上場直前に新株予約権の付与を行う際には、取引所が予め定めたルールに遵守しなければ、上場申請そのものができないというルールがあります。

  このコラムの作成時点では、新株予約権信託については、会社法や税法上の考えは整理されてきているものの、取引所ルールとの関係では不明確なままで、会社もあまり公開前規制を意識しないまま付与をしてしまうことがあります。付与の際には証券会社等にもスキームと内容を確認のうえ、慎重に付与をされることが望まれます。

 

以上、マニアックな内容となりますが、長文駄文、失礼致しました。

ご覧になって頂きました方にとって、何かしらのヒントになれば幸いです。

 

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