コラム

CVCのすゝめ


新 和博

アイ・マーキュリーキャピタル株式会社
代表取締役社長

CVC、事業会社

2015/05/15 14:00



■はじめに

ミクシィのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)部門、アイ・マーキュリーキャピタルで代表を務めている新と申します。アドウェイズの山田さんからバトンを引き継ぎました。

大企業に所属している方がひとりでも多くCVCという仕事に興味を持っていただければと考え、私がCVCに関わりだしたきっかけや現在の取り組み、CVCという仕事の魅力についてお話したいと思います。

 

■CVCに関わりだしたきっかけ

私は1999年に新卒でNTTドコモに入社しました。1999年と言えば2月にiモードが始まったばかりで、iモード対応端末は初速こそ売れ行きが鈍かったものの夏頃には利用者が急増してネットに繋がりにくくなるという現象が頻発、対応コンテンツも実用的なものからエンタメまでの幅広いジャンルで急速に増加し、年末にはカラー端末が発売されるといった一連の流れで、ケータイが人々のライフスタイルを一変させてくれるだろうという期待が一気に広がったまさにモバイルインターネットの黎明期でした。

 

入社前からコンシューマー向けのサービスの立ち上げをやりたいと考えており、入社後はいつかiモードの部門に異動したいと思っていたのですが、最初の配属先は支店の営業窓口、次に同じ支店の法人営業部門、その次は本社の法人営業部門といったように「コンシューマー向けのサービス」部門とは遠いところで異動を繰り返し、ようやく希望が叶いそうになった頃には、すでにiモードは成長期から成熟期を迎えようとしていました。

 

どちらかと言えば、立ち上げ期や成長期に携わりたいと思っていたiモードが十分過ぎるほど成長し、さてどうしようかと思っていたときに、進路について相談した先輩から教えてもらったのが、ドコモ・ドットコム(現NTTドコモ・ベンチャーズ)というCVCの存在でした。

 

2005年から2006年年初にかけての新興市場バブルの際にデイトレにはまっていた自分にとって、ベンチャー投資の仕事は株式投資と事業立ち上げに同時に携わることができる、一粒で二度美味しい仕事”のように感じられ、自ら志願して2008年にドコモ・ドットコム異動しました。それ以来、2011年のミクシィへの転職を経て今に至るまで、濃淡やブランク、紆余曲折はありますがCVCに関わっていることになります。

 

 

■ミクシィのベンチャー投資への取り組み

ミクシィがベンチャー投資を開始したのは2009年、SNS「mixi」において「mixiアプリ」の提供を開始した年になります。資金面での支援を実施することでより多くのアプリ開発者を呼び込もうという試みとして「mixiファンド」という投資プログラムを開始しました。資金供給側のミクシィはプラットフォーム提供者、投資先のベンチャー企業はサードパーティーであるという明確な立ち位置の違いがあり、かつ両者はビジネスパートナーという関係でした。その後、プラットフォーム活性化のための一定の役割を果たしたということで、2011年にmixiファンドの新規の活動は停止しました。

 

次にベンチャー投資を再開したのは2013年、当時はミクシィの業績が落ち込み始め、V字回復を目指すために社内改革に着手し始めた時期でした。当時のミクシィは主力事業としてSNS「mixi」と転職サイト「Find job !」の2つしか持っていなかったわけですが、これからは事業ポートフォリオを拡大し、非連続の成長を目指すということをより明確に打ち出すために、同年7月に投資子会社としてアイ・マーキュリーキャピタルを設立、現在に至るまでにミクシィからの出資案件も合わせると8件の投資を実行(うち1社は後に100%子会社化)しています。現在は、ミクシィグループの既存事業の強化(事業シナジーの創造)、事業ポートフォリオの拡大(将来の連結対象候補)、という観点も含めて投資活動を行っているので、ミクシィと投資先のベンチャー企業の関係は、「ビジネスパートナー」の場合もあれば、自社で手がけようとしていた事業領域の先行プレイヤーに投資するというケースにおいては「将来のライバル候補」の場合もあるということになります。

 

mixiファンドと現在の投資活動では多少の方針の違いはありますが、“自社単独では起こしづらいイノベーションをベンチャー企業の力を借りて生み出していきたい”という考えがベースにあるという点は共通しています。ベンチャー企業ならではのスピード感や多様性、リスクの取り方は、なかなか大企業(特に四半期毎に業績の開示義務がある上場企業)には真似のできないところでもありますし、恐らくミクシィ以外の大企業がベンチャー投資を行っているのも似たような理由よるものだと思います。

 

■CVCならではの難しさ、メリット

一般論としてのベンチャー投資の難しさの解説は他に譲るとして、CVCならではの難しさやメリットについて書いてみたいと思います。

 

<CVCならではの難しさ>

独立したVCであれば、数人のパートナーが10年間でひとつのファンドを運用する、というやり方が一般的だと思います。投資の対象分野や判断基準なども予め定められており、同じ方針の下、同じ担当者が投資実行から回収までを一貫して遂行することになります。

 

一方でCVCの場合、事業会社としての戦略に従属するかたちで投資を実行することになりますので、日々の激しい環境の変化により当然のことながら会社の戦略も変わりますし、それに伴ってベンチャー投資の方針も変わります。ミクシィにおいても事業再生フェーズから再成長フェーズに移行する中で、ベンチャー投資の方針は少しずつ変化しています。

 

また、大企業ではジョブローテーションが大前提の人事戦略をとっているため、だいたい3年1サイクルで人が替わります。ベンチャー投資部門を管掌する役員が替わることもあれば、投資案件の担当者が替わることもあります。そして、大抵の会社では半年毎に人事評価が行われます。しかし、ベンチャー投資は投資実行から回収までに3年以上かかるような案件がほとんどですし、半年毎に目に見えるような成果は出しづらい仕事です。この時間軸の違いは難しい問題です。(目に見える成果としては「新規投資件数」というのがありますが、これを高く評価しすぎると、担当が案件の質をあまり考えずに「たくさん通すこと」に一生懸命になってしまい、後任が後始末に追われる、という事態が起こりかねません)

                

そして、多数の事業を手がける大企業のCVCにありがちなのが、社内で検討していた新規事業と近いビジネスプランが持ち込まれるということです。そこで担当者がベンチャー企業のアイデアを事業部に密通するような立ち振る舞いをしてしまうと、ベンチャーコミュニティからスパイのような目を向けられ、結果としてその会社や担当者には案件が来なくなるというリスクがあります。サラリーマンとして所属企業に貢献する気持ちを持ちつつ、ベンチャー企業の立場を守るという意識を忘れずに、事業部に共有してよい情報とそうでない情報をケースバイケースで選別するセンスが求められます。

 

 

<CVCならではのメリット>

ベンチャー投資の仕事は、そもそもベンチャー企業やVCとの接点がないことには始まりません。VCの世界では、バイネームで活躍されているキャピタリストがたくさんいらっしゃいます。“著名キャピタリスト”と“CVCをこれから志願する大企業の従業員”とを比較すると、投資の基礎知識、実務経験、事業性評価の知見、EXITの実績、業界内の人脈、ほぼ全ての面で劣るのが大企業の従業員です。だからと言って、自分には何も武器がないと嘆く必要はありません。自社の「知名度」と「事業部門の知見」というリソースを活用することで、想像していたよりは低いハードルで人脈作りのきっかけを掴むことができ、事業部門の知見を借りて事業性評価を行うことができるからです。これは、いきなりキャピタリストとして独立するのではなく、CVCとしてベンチャー投資の仕事を始めることのメリットだと言えると思います。

 

誤解を生まないよう補足すると、名の知れた大企業に所属しているからと言って偉そうにできるわけではないし、待っていても案件がどんどんやって来るわけでありません。ただ、ベンチャー企業側からのニーズとして、あの会社とこんな事業提携をしたいので誰か窓口となるひとに繋いで欲しい、という話は一定の頻度で発生するため、そういったニーズに丁寧に対応しているうちにある程度の規模の人脈は構築できます。また、事業部門との提携を希望しているベンチャー企業を事業部門に紹介することで、現場がその会社のサービスや技術をどう評価するかということを参考にできるわけです。

 

また、CVCならではの面白さとしては、投資案件が生み出すキャピタルゲイン以上の結果を出せるチャンスがある、ということが言えると思います。ベンチャー企業への投資を通じで、ワンショットで売却益を獲得することももちろん重要ですが、事業提携もセットで議論することでシナジーを作り出せば継続的な事業利益を生み出すことも可能になります。もし投資先のベンチャー企業を自社が買収することになれば、連結の業績に取り込み続けることもできるわけです。ベンチャー投資を通じて自社の事業拡大の一端を担える、というのがCVCの仕事の大きな魅力です。

 

 ■おわりに

ミクシィが属しているインターネット産業においては、大企業やベンチャー企業という規模を問わず、協業や統合、人材の流動化が活発になってきています。また、最近ではインターネット産業と伝統的な産業の融合、協業といった事例も出てきております。恐らくこの流れはより一層加速するでしょう。

 

今後、大企業とベンチャー企業とのハブのような存在として、CVCが重要なポジションを担うであろうと思いますし、自分自身が所属する大企業に対して何かしらのイノベーションを起こしたいと考えている方は、次の異動先としてCVC部門を候補として検討することをお勧めします。CVCを志願する大企業の社員が増えることで大企業とベンチャー企業の接点が増え、数多くのイノベーションの誕生と世の中の問題解決に繋がることを願っています。

 

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