コラム

スタートアップが知っておくべきCVC(事業会社VC)とイグジットの真実


菅原 康之

株式会社オプト
インキュベーション本部 VC事業部

CVC、事業会社

2014/08/20 14:00



■はじめに

BASFジャパンの斎藤さんよりバトンをいただいた株式会社オプトの菅原です。インターネット広告会社であるオプトにて新たに発足したCVCにてキャピタリストをしております。

斎藤さんには業界の違いがある中CVCの設立時にいろいろと情報交換をさせていただいてから仲良くさせていただいております。また若輩者でありますが、事あるごとに気にかけ可愛がっていただき感謝しております。合わせて、このような貴重な機会をいただけたこと、本当に感謝しております。



■昨今のスタートアップ業界の特徴とオプトCVCの目指す世界観

さて、昨今スタートアップの大型資金調達が相次ぎ、第4次ベンチャーブームとも言われておりますが、今回のベンチャー支援の盛り上がりはこれまでのベンチャーブームと異なる点がいくつか挙げられるのではないかと思います。

①事業家の「質」が変化している

これまでは学生起業=ベンチャーというイメージが強かったように思いますが、最近は複数回の起業にチャレンジしているシリアルアントレプレナーや投資会社やコンサル企業などで比較的しっかりとした社会人経験を積み大企業の力学を理解した大人の起業家が増えています。さらに同じ学生起業でもこれまで大企業やキャリア官僚を目指していた東大、京大などの優秀な学生が起業するケースが確実に増加していると感じています。

②起業初期の支援者が増えている

これまで、スタートアップ初期の支援者というのは、ごく少数のエンジェルと言われる個人投資家でした。そこで調達した資金と自身の貯蓄等を元にして事業をある程度まで育て、VCからの資金調達に進むという流れが多かったかと思います。しかし、近年はシリコンバレーの500 Startupsのようなスタートアップアクセラレーターと呼ばれる起業初期の支援者がサービス開発前の起業家を支援するようになりました。この結果として、起業において最も高いハードルである最初の一歩がこれまでよりも格段に踏み出しやすくなりました。

③CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の増加

これまでは、プロ投資家というと銀行系・生保系・専業系VCが主流でしたが、ここ数年の傾向として事業会社がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として投資活動を始めたことです。それも特にIT企業の成長に起因してIT企業自身がCVCとして投資活動を始めるケースが増えております。大企業が投資活動によりベンチャー企業に出資する行為は、自社内では起こせないイノベーションを社外の力を借りて成し遂げていこうという姿勢から生じてきます。大企業がベンチャーとの取り組みを強化したり、出資したりする流れが促進されることは、その展開として事業の売却先としての意味合いも持つこととなるため、IPO以外のイグジットの機会を多く提供できるようになり、このベンチャー支援の盛り上がりをブームに納めず定着させる力となると考えています。

これらの「起業家の質の変化」「起業初期の支援者の増加」「CVCの増加」という変化は、現在のスタートアップにとっての良い流れが一過性のものではなく定着する兆しと受け取っています。



この、スタートアップエコシステムにおける事業会社VC(CVC)の役割が増す中、弊社オプトでも投資事業を始めました。元々創業から現在まで含めると約250件の投資活動実績があり、数多くの成功とそれ以上の失敗をしております。その多くの投資経験から弊社が感じるスタートアップ支援の在り方を考え、出資先支援の考え方を作り上げてきました。

弊社では、「イノベーションNo.1カンパニー」というビジョンを掲げ、2020年までに売上1兆円企業になることを目指しています。イノベーションNo.1カンパニーは使命軸と規模軸の掛け算で考えており、

使命軸として、成長に挑戦する企業と人を応援し、次代を切り拓くイノベーションを生み出し、未来の世界への繁栄エンジンとなることを目指し、規模軸では①売上1兆、経常1000億 ②100人×100社=1万人(1社で1万人ではなく)と設定しています。

そのような全社ビジョンの中でCVCとしては、「インターネット革命」によって社会にイノベーションを起こす会社へ積極的に投資を進めております。他の事業会社同様に、自社内部発のイノベーションに限らず、外部のスタートアップの力を借りながら達成するという方針で投資活動をしております。そのため投資は社内のメイン事業のみが対象ではなく、将来実現するであろう「確実な未来」を捉えて、将来的市場から逆算し成功確度の高い事業に対して投資を行っていく方針です。弊社はインターネット広告の会社なので、アドテクノロジー周りのスタートアップのみに投資をするのだろうと思われる方が多いのですが、VC事業としてはその比率は非常に少なく、それ以外の将来成長領域のビジネスに対して投資をしております。現在の投資領域も「ビジネスクラウド」「ダイレクトコマース」「クラウドソーシング」「EduTech」「アドテク」となっており、アドテクノロジー以外は現状のビジネスの印象とは結びつかないものが多いかと思います。

※「確実な未来」とは現状の統計情報から、今のまま増減がなくても実現可能性が高い事象のことである。例としては人口の減少、少子高齢化など。

 

図1)オプトCVCの投資コンセプトとターゲットセクター(※事業紹介資料抜粋)

 

 

IPOについての厳しい現実

スタートアップの多くは、事業成功の証として、更なる事業成長のためにIPOを目指すことが多いと思います。しかしながらIPOを実現するのは非常に難しいのが現状です。2013年で年間約16.8万社が創業しており、そのうち創業融資を利用した企業が約6800社。これらのうち約30%が成長を志向した創業とすると約2,000社程度が母数となります。それに対して、IPOの件数は2013年で約70社、今年でも80社程度と言われているので、本格的にIPOを目指しIPOを実現できる確率はざっくり4%ということになります。もちろん、事業運営の中で、様々な問題が起こるわけなので、それらのリスクを全て含んでの確率ということです。

 

図2)年間IPO件数の推移(1990年〜2014年)

 

弊社でも、スタートアップ期に出資し後にIPOした会社がいくつかあります。その代表企業が昨年12月にIPOを果たしたホットリンク株式会社です。事業内容はソーシャルメディアの口コミ分析ツールの開発・販売です。今でこそビックデータ関連企業として市場からの高い評価を受けていますがで、出資初期は課題も多いスタートアップでした。

ホットリンク社への出資後、弊社はその経営の局面局面において様々な支援をしてきました。投資という「カネ」のみでなく、ネット広告に詳しいマネジメント人材をCOOとして派遣したり、セールスフォースやシナジーマーケティングという企業とのアライアンス支援したり、またネット選挙解禁の際には広報機能を提供しマスコミに取り上げてもらうよう惜しみない協力をしました。そのような様々な支援の結果2013年12月に出資より8年かけIPOまでたどり着いたのです。

 

図3)株式会社ホットリンクがIPOするまでの軌跡



現在のCVCとして本格的に投資事業を行うという立ち位置になってからも、投資先への支援スタンスは変わりなく、カネのみではなく、対象企業の成長に必要な人材、ノウハウ、経営アドバイス、アライアンス支援など惜しみなく提供しています。もちろん、出資比率によって支援内容は変わりますが、ヒト、カネ、情報の経営資源も惜しみなく投入することは全投資先に共通していることだと思います。直近では、スタートアップにとって整備が遅れがちな法務、労務、広報などの管理部門を「シェアードサービス」として必要な分だけ投資先に月額提供するサービスも始める予定となっております。

 

M&Aによるイグジットはどのように想定しておけばよいか?

IPOについての現実を考えると、スタートアップのイグジットとしてIPOだけを考えているのでは非常に危ういことが良く分かるかと思います。したがって、IPOと一緒に考えるべきなのが「事業会社への売却≒M&A」というイグジットの可能性である。IPOは目指しながらも環境変化に合わせ、柔軟にM&Aを検討し続けているとこで事業運営はより進めやすくなると思います。



ただ、その場合にM&Aの前提条件を理解しておく必要があります。それは、

・現実的にM&Aをする企業は限られている(近年のIPO企業がメイン)

・現状の日本において1社あたりのスタートアップM&A資金は6~20億円くらい

という点です。 直近で記憶に新しいスタートアップのM&Aでいうと、 ・株式会社ブラケット(STORES.jp運営):2013年7月にスタートトゥデイにより100%買収(買収価格は約6億円) ・コーチ・ユナイテッド株式会社(プライベートコーチの「Cyta.jp」運営):2013年9月クックパッドにより100%買収(買収価格は約10億円) ・株式会社スポットライト(共通来店ポイントサービス「スマポ」運営):2013年10月に楽天により買収(買収金額は不明だが15~20億円程度と推測) などがありますが、M&A実施企業は下記に示す、日本の成長市場をけん引している代表的企業であり、その買収金額は10億円前後となっています。

つまりは、イグジットとしてM&Aを想定するのであれば、かつてのメガベンチャーを分析し自社を魅力的に感じるところはどこだろうかと考える必要があります。さらに、その場合の買収金額も10億円前後を想定しておいた方が可能性が高まると言えるかと思います。

 

図4)日本の成長市場とその市場をけん引するメガベンチャー企業

※●は各市場の代表企業がIPOした年

 



イグジットに関して常に複数のオプションを持ちながら事業運営を続けて欲しい

現在のスタートアップが置かれている状況は、一時代前よりとても恵まれている状況だと思います。しかし、IPOというイグジット(事業運営上は入口ですが)だけは以前よりも厳しくなっています。一方で事業会社のCVCやオープンイノベーションとしてのアライアンスを進める事業会社が増えていますので、上手な付き合いをしながら資金調達や業務提携をしつつ場合によってその会社へ売却するなど、イグジットについての「カード」もいくつも持ちながら事業を成長させていっていただきたいと思っております。



最後に、CVCキャピタリストは、投資活動をしているとはいえ根本的には依然としてサラリーマンです。ただ、サラリーマンの中ではベンチャー企業への理解や応援する気持ちが強い人たちが多いと思います。支援を受けたい会社に対しての翻訳者・通訳者として自分たちスタートアップの仲間に取り込みながら事業会社を味方につけてください。

私の場合は、お会いしたスタートアップの方には何かしらの「お土産」をプレゼントすることにしておりますので、些細なことで構いませんのでいつでも相談いただければ幸いです。

 



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