コラム

ハードウェアが面白い


宮澤 靖雄

Nitto Innovations, Inc.
President

CVC、事業会社

2014/07/09 14:00



Nitto(日東電工(株))の宮澤です、こんにちは。パナソニックの濱崎さんからバトンを頂きました。私はNittoのCVC(Corporate Venture Capital)であるNitto Innovationsという会社(所在地:米シリコンバレー)で働いています。シリコンバレーには何があるのか、我々はそこで何をしようとしているのか、この場を借りてその一端をご紹介したいと思います。

 

■今、ハードウェアが面白い

サーモスタットのNEST、ヘッドマウントディスプレイのOculus VR、ヘッドフォン&音楽配信のBeats、衛星画像のSkybox Imaging、いずれもアメリカの大手企業が最近買収したハードウェア・ベンチャーの名前で、それぞれ大きなニュースになりました。アメリカでは、今も多くのハードウェア系ベンチャーが生まれ、大手自動車企業、民生品や各種産業の企業、ネット系企業までもがそうしたハードウェア系ベンチャーに注目し、業務提携や資本提携をしたり、買収したりしています。

大手企業がハードウェア系ベンチャーに注目する理由は何か、個々の案件に込められた意図は時間と共に明らかになると思いますが、総じて「新しいプラットフォーム」や、それを実現するための「要素技術」を求めているのだろうと見ています。例えば、スマホは日常生活に欠かせないプラットフォームになって久しいですが、今やコモディティ化しつつあり、スマホの上で展開されるサービスも似たり寄ったりでだんだん差別化が難しくなってきた、更に事業を成長させるためには次のプラットフォームを求めざるを得ない、そうしたことが背景にあるのではないかと考えています。

何故ハードウェアなのか。何か新しい技術で人間の生活を便利で豊かにしようと思ったら、人間との接点は必ずハードウェアになります。昔に比べたら格段に進歩したとは言え、相変わらず人間はキーボードをたたいたり、画面をなぞらなければならず、操作がわかりにくかったり、小さな画面を押し間違えることもしばしば。ハードウェアにはまだまだ発展の余地があると思っています。

とは言うものの、ハードウェアのビジネスは難しいです。しっかりした技術や経験、そして恐らくはそれなりの資金が必要です。顧客の目が肥えている場合も多いのでハンパなものでは売れません。課題は山積です。多くの人のアイデアを集めたらいいものが出来るかというとそうでもなくて、ハードウェアのデザインは何かとトレードオフが求められ、必要なものと不要なものを咀嚼し、「何を足すか」だけではなく「何を引くか」も考え、洗練されたデザインのものだけをユーザにわかりやすく伝える必要があります。

このようにハードルの高いハードウェアですが、人間の生活を豊かで快適にする余地ってまだまだあると思っています。画期的でしかも簡単にはマネのできない技術を持つとしたら、そのインパクトは絶大。ハードウェアはそうしたポテンシャルの溢れる分野だと思っています。そんなハードウェアに注目し、元気のいいベンチャー企業の皆さんと新しいものを作りたくて、我々はシリコンバレーに来ました。

 

■ベンチャー企業との協業を通じてハードウェアのビジネスをしたい

ところで、Nitto(日東電工)をご存知ですか? 「昔、新幹線の車内電光掲示板で広告出していた会社?」ってよく聞かれるんですが、そうです、その会社です。

Nittoは、粘着技術や塗工技術をベースに、身の回りの不可欠な製品を世に送り出しています。皆様が家庭のテレビや職場のパソコンでご覧になっている液晶ディスプレイには光学フィルムが必須ですが、Nittoはそうした光学フィルムのトップ・ブランドですし、皆様がお使いのスマホやタブレットのタッチセンサーにもNittoの技術が使われているかも知れません。製品の多くが「テープ」や「フィルム」の形をしています。エレクトロニクス、自動車、住宅にも多くのNitto製品が使われており、肌に貼り付けるタイプの薬(経皮吸収型テープ製剤)や水処理膜、身近なところでは「コロコロ」というテープ製の掃除グッズ等もNittoが作っています。最終製品の中の部材に使われることが多いため外からは見えにくいかも知れませんが、我々の製品は皆様の身の回りに深く浸透しています。

Nittoでは、今後の新しい事業領域として“グリーン・クリーン・ファイン”(環境・新エネルギー・ライフサイエンス)といった分野での技術開発に注力していますが、ベンチャー企業の皆様との協業を通じてそうした新分野を開拓する道を探っています。

 

●Win-Winな協業の関係

我々には長年培った製造技術や販売網があり、これまでの資産を活用して新しい製品を作っていきたいと考えています。その一方で、産業構造や消費者の嗜好が大きく変化していく世の中にあっては、時流に合ったものを作っていくのは難しくなってきており、我々とは異なる文化や発想を持った方々と協力関係を作ることで、何かこれまでとは違った発想の技術や商品が生まれるのではないか、そのためには独創的で発想力豊かなベンチャー企業の皆様と協業することが重要ではないか、我々はそんなことを考えています。

「協業」ですから、お互いの立場は対等が原則です。協業を通じて我々はメリットを得たいと思いますし、ベンチャー企業の皆様にとってもメリットのある形でなければなりません。いろいろな形の協業がありえます。共同開発、ライセンス契約、物の売買、情報やサービスの提供などなど、双方の実情を踏まえて適宜アレンジすることになります。共同開発を通じてお互いそれぞれの技術の知見を深めることができるでしょうし、販売先が広がる可能性もあります。協業に必要な資金も投資等を通じて検討する用意があります。我々は、そうした活動を通じてお互いがWin-Winになれる形を作りたいと考えています。

 

●「筋の違う技術」に期待

我々がベンチャー企業の皆様に期待しているのは、ユニークな技術、あるいはそれに根差した事業(のアイデア)です。

ユニークな技術というのは、「筋の違う技術」と言い換えることが出来るかも知れません。やや曖昧な表現ですが、この「筋」という概念はハードウェアの世界ではとても重要です。それは、中核となる材料、方式、回路だったり、製造技術だったりしますが、そうしたものがアーキテクチャ全体の性質を大きく左右することがしばしば起こります。他とは一味違う筋の技術であること、あるいはそれが大きなポテンシャルを秘めるものであれば尚のこと、我々は魅力を感じます。そうした原石を磨く作業を手伝えないか、我々はそんなことをベンチャー企業の皆様との協業に期待しています。

 

■ベンチャーがアメリカに行く意味

皆様ご存知のとおり、サンフランシスコ周辺のベイエリアは、世界で最もベンチャーがアクティブに活動している場所です。世界中からあらゆる人種の人たちが集まって夢の実現を目指しています。人が集まりそうな街のカフェに入れは一目瞭然、多くの人が自分のプランをプレゼンしながら、あれこれ議論している姿を見ることが出来るでしょう。

この街の最大の魅力は、多くの人が「新しいことをしたい」と思っていることです。カリフォルニア特有のカラッとした気候とも相まって、新しいことを始めやすい「空気」のようなものがあり、新しいことが好きな人たちが集まるイベントが毎週あちこちで開かれています。そうした空気のようなものに魅力を感じてか、日本からSFベイエリア周辺に出張して来られる方も多いですし、SFベイエリアで起業したいという人も少なからずいらっしゃいます。

僭越ではありますが、SFベイエリアに来られる日本の方々のお役にたてればと思いまして、一般的な心構えのようなものを挙げてみました。

 

●コミュニケーションが基本

前述のとおり、SFベイエリアには新しいことをしたい人が集まっており、多くの新しいアイデアがあります。ですが、そうしたアイデアはどこかのショールームに展示されているわけでもなく、常に「人」に帰属しています。そうした人たちと如何に交わっていくか、どうやって友好関係・協力関係を作っていくかがポイントになります。誰かと対話するためのコミュニケーション能力が求められるわけですが、それは英語のスキルのことだけではなく、たとえ英語が片言であっても臆せずに飛び込んで行って、自分の思うところを主張していくガッツのようなものが必要です。日本人同士で固まらないで、どんどん飛び込んでいく心構えがまずは必須でしょう。

 

●Give&Take

人とのコミュニケーションは双方向でするものです。何かの情報を与えてもらったら、お返しに何か有益なことをフィードバックしましょう。そうしたGive&Takeの姿勢がとても重要です。アメリカは日本よりもミーティングのアポイントを入れるのは簡単ですが、Takeだけする人、自分の聞きたいことだけ聞いたらそれで終わりの人、何ら価値のある情報をもたらさない人は、次のアポイントを入れるのは難しいのが常。情報発信を心がけ、「この人はおもしろい」とか、「この人に会えてよかった」と思ってもらえれば、きっと次につながるはずです。

 

●シンプル・イズ・ベスト

SFベイエリアに来る人たちは、様々なバックグラウンドを持っています。言語的、文化的に違った背景を持つ人たちと分かり合おうと思ったら、メッセージはシンプルであるべきです。自分のやりたいこと、自分が主張したいことがシンプルなメッセージで集約できるなら、それだけ賛同者も得やすいはず。「エレベーター・ピッチ」という言葉がありますが、自分のやりたいことを10秒で簡潔に説明出来たら、きっとわかってくれる人が出てくるでしょう。

 

●重要なのはアイデアよりも実行

SFベイエリアには多くの新しいアイデアがありますが、そうしたアイデアはあくまでアイデア、本当に重要で大変なのはそれを「実行すること」、というのがここでの共通認識です。実行する人は、それだけで敬意を受けられるでしょう。

 

●ここに来ることから始めよう

カリフォルニアは何しろ空気がカラッと乾いていて天気がいいです。単純だけど、それだけでとても気分がいい。そうした環境にいるだけで、人間は開放的になれるものです。

まずはここに来てみて、人と話をしてみて、カフェでブレークファスト・ミーティングをしてみて、、、そうしたことから何か新しいことが始まるかも知れません。

いつかこの地で皆様にお会いする機会があればと期待しています。

 



●関連企業

Nitto Innovations, Inc.

日東電工株式会社


宮澤 靖雄

Nitto Innovations, Inc.
President

アーサー・アンダーセン・アンド・カンパニー(現アクセンチュア)、日本サン・マイクロシステムズ等を経て、
2000年から金融系VC、商社系VCにて日・米・欧のハイテクベンチャーへの投資事業に携わり、
2013年に日東電工株式会社のCVCである"Nitto Innovations, Inc."を設立、現在に至る。


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