コラム

大企業とのアライアンスを成功させる秘訣とは


濱崎 省吾

パナソニック株式会社 R&D本部 新規事業開発センター
コーポレートVC担当参事

CVC、事業会社

2014/06/10 14:00



キャピタリストの佐藤さんよりバトンを頂きましたパナソニック株式会社の濱崎です。R&D部門でコーポレート・ベンチャーキャピタル(C-VC)を担当しています。弊社は1998年に米国シリコンバレーでC-VC活動を開始し、これまでに北米のベンチャーを中心に40社以上に出資しアライアンスを組んできました。佐藤さんのコラムではベンチャーとC-VCとの付き合い方について解説がありましたので、今回はもう一歩踏み込んで、大企業とのアライアンスの組み方や成功の秘訣、シードアクセラレータの活用、最後に、日本のものづくりの新エコシステムについてお話をしたいと思います。



【大企業とアライアンスを組むメリット】

ベンチャーは、自らの競争力の源泉である技術やビジネスモデルを、自社資金だけで発展させるのは困難です。大企業とアライアンスを組んで、大企業が持つ経営資源をうまく活用することで、自らを成長させることができます。



【大企業とのアライアンスの組み方】

大企業とのアライアンスの組み方は種々ありますが、主なものに次の二つがあります。

1 購買取引

大企業に対して、自社が開発した製品を販売、またはソフトウェアや特許の使用ライセンスを提供します。この組み方は、ある程度事業が軌道に乗ったミドルステージ以降のベンチャーと大企業との間でよくみられます。購買取引が一旦始まると、ベンチャーは比較的長期間に渡って安定した収入(売上げ)を得ることができます。

2 共同開発

まだ世の中にない新しい技術や製品を目指して、大企業と一緒になって開発を進めます。開発費の一部(条件次第では大部分)を大企業側が負担することで、ベンチャーは開発段階から収入(委託費)を得ることができます。共同開発の成果の一つである特許は、両者の共有財産となるのが基本です。これを第三者へライセンス提供することでレベニューシェア(利益分配)を得るビジネスに発展することもあります。

会社規模が大きく異なる両者が、対等な立場で持てるものを出し合い、共通の目標に向かって協働することこそが共同開発の醍醐味であり、我々はC-VC活動を通じてこの共同開発を推進したいと考えています。



【シードアクセラレータの活用】

大企業とのアライアンスを始めるに前に、会社としての最小限の要件を備える必要があります。創業間もないベンチャーは、アイデアはあっても経営や資金調達のノウハウが不足しがちです。それを独自の育成プログラムによって補ってくれるのが、ご存じシードアクセラレータです。

2005年に米国でY Combinatorが活動を始めて以来、特にICT系ベンチャーの育成はシードアクセラレータが担ってきました。シードアクセラレータは、少ない資金で短期間に企業価値を何倍にも成長させると言われますが、それは本当でしょうか。答えはYesです。しかし、その効果を定量的に分析したデータはほとんどありません。そこで、私が独自に調査した結果を皆様にお見せしたいと思います。

表1は、米国の代表的なシードアクセラレータから出資を受けてExitしたベンチャーと、従来からあるシードステージに投資するVCから出資を受けてExitしたベンチャーについて、最初の資金調達からExitまでの日数と、その期間に集めた資金の総額と、会社売却の金額について、それぞれ中央値を比較したものです。

シードアクセラレータから出資を受けたベンチャーがExitするまでの期間は511日であり、シード型VCの場合の725日と比較して約30%短いことが分かります。その期間に集めた資金は51万ドルと約80%少なく、更に、会社売却の金額は9百万ドルで1/3強であるという結果でした。

このように高い育成能力を持つシードアクセラレータによって育てられたベンチャーは、多くの大企業の目にとまることになり、結果としてアライアンスの機会は増加します。



【アライアンス成功の秘訣】

そもそも生い立ちも価値観もスピード感も異なるベンチャーと大企業ですから、アライアンスで成功を収めるのは簡単なことではありません。

ベンチャーと大企業とのアライアンスは婚活とよく似ています。婚活の成功に重要なこととして、相手との相性、思いやり、信頼関係があると言われますが、これをアライアンスに置き換えると次の3つの秘訣となります。

1 双方の事業プランの整合性がとれ、経営リソースが補完関係にあること

2 アライアンスを開始してからは、自社の成功ばかりを考えるのではなく、相手が何に困っているかを把握し、相手が喜んでくれるよう手をさしのべること

3 最終ゴールを一気に達成させようとするのではなく、ステップを刻んで小さな成功体験を共有しながら相互信頼を積み上げて行くこと

これらを実践するには、表2に示すようなお互いの強みを理解することが大切です。ベンチャーの強みは、新しい技術やビジネスモデルを考案する斬新な発想力、失敗を恐れず果敢に挑むチャレンジ精神、そして、即決即断のスピード経営です。大企業の強みは、これまで培ってきたブランド力と潤沢な資金力、グローバルに張り巡らされた販売チャネル、そして、製品の品質を一定のものに安定させる品質管理能力です。ベンチャーの強みの裏返しが大企業の弱みで、大企業の強みの裏返しがベンチャーの弱みになるので、双方が強みを出し合うことで相手の弱みをカバーすることができるというわけです。



【ものづくりの新エコシステム】

最後に、これからの日本の“ものづくりのエコシステム”についてお話しします。これまで、シードアクセラレータの育成対象は日米を問わずソフトウェア事業が中心でした。米国製造業の国内回帰の流れもあり、最近になってハードウェア事業またはハード+ソフト事業のベンチャーを育成するシードアクセラレータが米国に出現してきました。

例えば、米国ボストンにあるBolt Innovation Group (www.bolt.io)では、ハードウェアを開発したい起業家に5万ドル程度を出資するとともに、NC機械や3Dプリンタといった本格的な工作機械が使える作業場を提供します。しかも常駐スタッフが使い方を指導してくれるので、短時間に試作を繰り返すことができます。しかしながら、量産段階に入ると、日本ではなく中国の製造ベンダーに製造委託するケースが多いと聞き、この点は残念でなりません。

日本のシードアクセラレータが、ハードウェア事業を育成対象とする日も近いと思いますが、これは日本にとって大きなチャンスです。ものづくりは日本の製造業が得意な分野です。コスト面だけを考えると、日本のものづくりのメリットはアジアに比べて少ないかもしれません。しかし、設計能力、生産技術、品質の面はまだまだ日本のものづくりに優位性があります。日本発でハードウェア事業を目論むベンチャーが、シードアクセラレータによって育成され、日本の製造業とアライアンスを組むことで、欧米やアジアに負けない、ものづくりのエコシステムが構築できるはずです。このエコシステムの中から、日本のものづくり産業の将来を担うベンチャーが誕生することを願っています。

 

●関連リンク パナソニック株式会社


濱崎 省吾

パナソニック株式会社 R&D本部 新規事業開発センター
コーポレートVC担当参事

1991年04月 パナソニック株式会社 入社、本社R&D部門にてコンピュータビジョンの技術開発を担当
2005年10月 Panasonic R&D Company of Americaへ出向、Panasonic San Jose Laboratory 副所長、Panasonic Venture Group 副所長
2008年10月 パナソニック株式会社 本社R&D部門にてベンチャリング業務を担当
2009年04月 同 ベンチャリング業務の責任者に就任、現在に至る


玉井 節朗
Venture Support 360
2014/6/12 11:01

現在シリコンバレーにて起業しています。 現地でのコンタクト先、ご担当者をお知らせ頂けないでしょうか。よろしくお願いします。

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