コラム

事業サイドからみたスタートアップとの提携/出資のポイント


今田 隆秀

ヤフー株式会社
マーケティングソリューションカンパニー ストラテジックアライアンスマネージャー

CVC、事業会社

2014/05/14 14:00



事業買収と聞いて私が真っ先に思い出すのは、かつてビジネススクールの中庭で級友と交わしたちょっとした議論だ。

入学間もない9月のある晴れた日の昼休み、ベンチでぼんやりケースを読んでいると、クラスメイトでヘッジファンド出身のAが話しかけてきた。「GoogleのYouTube買収についてどう思う?」2007年の当時、2006年にGoogleが実施した異例の高額買収は未だ多くの学生の議論のネタになっていた。「非常にいい買収だよ。ネットのコンテンツはまだまだ進化する。動画のポテンシャルはまだ発揮されてない。加えて、Googleがもつ広告のノウハウは、高いシナジーを生むはずだ。」「ふーん。どうかな。。」このときは自分で言っていて、態度ほどには自信がなかった。7年経った現在、YouTubeがすばらしい買収であったことは、誰の目にも明らかだ。今だからこそ、Eric Schmidtの慧眼に驚嘆する。事業提携/出資を通して、自分にしか見えていない将来の絵を現実のものにし、世の中を変える。その夢を追って、私は今ヤフーで事業開発を行っている。

 

簡単に私の仕事を述べると、ヤフーの事業サイド(広告を中心とするマーケティング事業)にあって、その戦略の一環としてスタートアップを含む他社との提携/出資をまとめている。提携/出資の目的はあくまで戦略の実現だ。自社だけでは実現できない、もしくは時間がかかる絵を描ききるためにベストなパートナーと手を組み、共に夢の実現にむけて汗をかく。

 

我々にとってタッグを組むスタートアップというのは、志を同じくするパートナーだ。お互いの良さを生かすことで、市場を変えるサービスを世に出す。さまざまなパートナー候補と会う度に、世の中にはこんなに多くの優れた起業家がいるのかと驚かされる一方、その中でも共に戦うことを選ぶケース、選ばないケースが分れる。今回は、提携/出資する企業サイドからみた、これらのケースを分けるいくつかのポイントを紹介したい。(ちなみに、これは私個人の視点だ。ヤフーには事業開発に関しても様々なタレントが集まっていて、その多様性こそが大きな力になっている。)

 

 

1. プロダクトの完成度

事業提携/出資のターゲットはプロダクト/テクノロジー、タレント、クライアントベース、いろいろありうるが、ヤフーのようなインターネット企業の場合、その多くはプロダクト/テクノロジーだ。このとき、まず考えるのは「同様のサービスを内製できないのか」である。戦略上、そのプロダクト/テクノロジーの必要性/緊急性が認識されている中で、自社開発と提携/出資が天秤にかかる。出資/提携に動くのは「このプロダクトは一朝一夕には開発できない」と感動したときだ。プロダクト/テクノロジーに触れてその洗練された出来に圧倒されることは、プロダクト/テクノロジーを目的とした事業提携/出資の大前提である。

 

2. 高い志、筋肉質な現事業

ヤフーは「オンリーワン」戦略を掲げている。そもそも、インターネットの世界はWinner takes allである。スタートアップへの事業出資/提携を考える際、3年後にそのサービスが残っているかどうかを考えれば、現時点で市場をリードしている、もしくは3年後に市場をリードするポテンシャルをもったプレイヤーをパートナー候補に考えることになる。このとき、そのパートナー候補のスタートアップの「志」が、その分野におけるヤフー自身の「志」になる。凡百のコピーキャットではだめなのだ。模倣自体は悪いことではない。オリジナルすらも喰うほどの力をもっているか、猫ならぬ虎なのかどうかをみている。

一方で、3年後、5年後に描いたプランを確実に実行できるかも厳密にみる。事業会社がスタートアップに出資するときに期待している結果は「100」だ。0も30も70もない。事業会社がいったん出資を決めれば、結果を100にするために全力を尽くす。事業会社にとってその分野に入ることは戦略上必須であり、その分野で自らの力では足りない部分を補ってくれるベストなパートナーを選び、一体となって事に当たる。自社の戦略の一部を託すパートナーを選ぶのであり、その事業計画が緻密にできていることはもちろんのこと、その現実化に向けてすでに踏み出しているかどうかをみる。プロダクト、クライアントベース、様々な観点で、3年後、5年後に目指す高みに到達できる、着実な一歩を踏み出しているかを確認させていただく。

 

3. マネジメントチーム

提携/出資を検討する中で、最後に必ず考えるのは「仲間として心を預けられるか」だ。前述のように、一度出資を決めれば、結果を出すために全力でサポートする。また、多くのケースでその事業からさらに一歩踏み込んだ、より大きな戦略の一部をマネジメントチームに将来リードいただくことを考えている。志を同じくする仲間として、心を預けるべき方かどうかを、私はいつも最後の最後で必ず自分の胸に問う。(ちなみに無論、同じことを相手の方も考えている。そういう意味で、信頼に足るパートナーであれと自らに言い聞かせる日々でもある。)

 

 

いろいろと書かせていただいたが、日々の業務の中で思うのは、「見えていない絵を現実のものとする」ことへの思いの強さが、人と人、ひいては会社と会社をつなぐということだ。事業会社とスタートアップが提携、資本関係を結ぶのもあくまでそのひとつの形でしかない。

その意味で、多くの人をひきつける強い思いをもった友人の一人であり、サンフランシスコで急成長するスタートアップAnyPerkの創業者であるSunny Tsangにバトンを引き継ぎたいと思う。



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今田 隆秀

ヤフー株式会社
マーケティングソリューションカンパニー ストラテジックアライアンスマネージャー

Microsoft Corporationにて、日本法人市場向けセールス・マーケティングに従事。シリコンバレーでのスタートアップ向けコンサルティング、マッキンゼー・アンド・カンパニーでの製造業向けコンサルティングを経て、2013年11月にヤフー株式会社に入社。アドテクノロジーを中心としたマーケティング事業における事業提携・出資を推進。Harvard Business School卒業。


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