コラム

コーポレートベンチャーキャピタルとの付き合い方


佐藤 真一


Corporate Venturing Expert (元サムスンベンチャー投資日本事務所代表)

CVC、事業会社

2014/04/16 14:00



皆様こんにちは。 

2014年3月まで、外資大手電機メーカーのコーポレートベンチャーキャピタル部門(以後CVC)にて日本市場の担当をしておりました佐藤です。起業家の皆様には、CVCとの付き合い方のヒントを、大企業の方にはCVC活動の参考にして頂ければと思います。 



[CVCとは] 

CVCとは、金融機関では無い事業会社が自社の競争力強化や新事業の機会を発掘する為に、 

ベンチャー企業に直接投資をする部門の事を言います。 

通常のベンチャーキャピタルが投資家からの資金を預かり、それを有望なベンチャー企業に投資をし、得られたキャピタルゲインを投資家に還元することが目的であるのに対し、CVCでは、投資をするという行為を通して、ベンチャー企業が保有する斬新なアイデアや技術を発掘・活用して行く事が目的になります。 



[CVCの種類] 

CVCは親会社の事業分野や組織文化によってその動きが大きく異なるので、CVCとはこういうもだと一概には言い切れないのですが、大きく分けると

- メディア・IT系 (NTT DoCoMo Ventures, KDDI, Gree, Klab Ventures, Fuji Startup Venturesなど) 

- 製造業系 (Panasonic, 旭化成, BASF, Intel Capital, Samsung Venture Investment, JSR, など) 

の2種類に分類出来ます。

この二つは特性が全く違うので別物と考えた方が良いと思います。 

メディア・IT系の典型的な例は、NTT DoCoMoのような通信事業系のCVCです。NTT DoCoMoは自社で大きな研究所を保有しているので、端末の要素技術を開発するようなベンチャー企業も投資対象ではあると思いますが、多くは、自社の通信サービスをより魅力的にするような斬新なサービスを展開するベンチャーの育成を通して、本業の発展を図るものです。元々多くの 

ベンチャー企業は、インターネット上でのサービスを展開しているところが圧倒的に多いので、ベンチャー企業との親和性は高いでしょう。 

一方、製造業系CVCは、R&Dのアウトソーシングや新事業のネタ探しにベンチャー投資を利用しているケースが殆どです。ですので、製造業系CVCが投資対象としている企業はハードウエアにせよソフトウエアにせよ、サービスモデルによるベンチャーではなく、特に権利化出来る知財を有する技術系ベンチャー企業になります。勿論自社のハードウエアプラットフォーム上に展開出来そうなアプリケーションやサービスを展開するベンチャーが投資対象になる場合もありますが、この場合、自社のサービスとその企業とのビジネス上の相乗効果は何処にあるのかについてシビアに検討します。 



[ベンチャー企業の立場から見たCVCとVCの違い] 

次に特に製造業系CVCから投資を受ける上で、一般のVCとどのように異なるのかについて説明します。 

- 戦略的整合性が重視される 

多くのCVC、特に製造業系のCVCの場合、自社の戦略と合致しているか、自社のR&D部門が必要とする技術をもっているかどうかが最も重要な要素です。ですので、ここに合致しなければ幾ら成長性があろうが、経営チームのトラックレコードが素晴らしかろうが、CVCは関心を示さないでしょう。まずは自社の製品なり技術が、その大企業(CVC)にとってどの様な戦略 

的価値があるかを考えてアプローチする必要があります。 

- 審査に時間がかかる 

製造業系のCVCでは特に、審査に時間がかかります。ピッチを聞いて投資を決めることはまずありません。先ずは、親会社の事業部門にベンチャー企業の情報を照会し、それが自社の関心分野かどうかを確認します。その後資料等でベンチャーの技術的アプローチ、マネージメントチームの技術的バックグラウンド、代替技術等の比較、実現性を大まかに検討した後、 

はじめて具体的な協議に入ります。ここまでで数ヶ月はかかります。投資決定まで半年〜一年かかる事もざらだと思います。二年を超える事もあります。 

- (製造業系の場合)知財戦略が重要 

技術系、特にB2B系のベンチャー企業で、製造業系CVCにアプローチをする場合、知財戦略はマストと考えた方がいいと思います。特に海外CVCとの駆け引きには知財が大きな力を発揮します。特許は、権利を行使しなければならない国での出願がマスト、つまり米国や中国ということなのですが、お金がかかるから日本だけ出願しましたというのはNGです。 

出願して一年半後には公開されますので、国内のみの出願だと、ただで海外に情報をたれ流しているだけ、という事になりかねません。基本的にはソフトウエアも同様と考えて下さい。 

「うちはソフトウエアだし、スピード勝負の市場なので特許が承認されるまでの期間に次に移っています。」、というのは事実です。が、大手の企業に技術を売込む場合は、それでも適正な知財化は必須と考えた方がいいと思います。東京都などでは中小企業向けに無料で知財相談を受ける窓口がありますので、相談されることをおすすめします。 



[CVC担当者は恵まれない人たち?だけどあなたの味方です] 

CVCから投資を受けることは、大手企業のお墨付きを得られ、しかもその企業と取引が拡大する可能性が極めて高くなるので、投資を受けるメリットは非常に大きいと思います。しかし、そこには勿論落とし穴もあります。  

大企業と付き合うのは大変です。先ず大企業は人が沢山います。担当者レベルでは資金繰りなんてことを考えた事のある人は一人もいません。ベンチャーが日々の資金繰りに苦労していることなんかみじんも気にしていません。あれこれ宿題を出して来て、いつまでたっても決断しないこともあるでしょう。最悪、アイデアだけ流用される事だって想定して置いた方 

が良いかもしれません。(これは企業というよりは、窓口になった技術担当者が信頼出来る人間か注意深く観察すべきでしょう) 

また、企業規模が大きくなればなるほど内部のポリティクスも複雑です。受注出来たと、ぬか喜びしていたら、その後音沙汰無しというケースも多々あります。 

(特にアジア系の企業に多いです。担当者が突然辞めたなどと言い訳します。) 

決して脅かす訳ではありませんし大企業を悪くいう意図は毛頭ありません。殆どの大企業の担当者は誠実でベンチャーとのWin-Winを真剣に考えてくれていると思います。ただベンチャーはある意味で一発勝負ですので、上記のような事も想定して行動するに超した事は無いと思います。 

企業の中には、CVCや経営企画室などのベンチャー専門の窓口担当者がいる場合があります。 

私もそうでしたが、このような担当者は大企業にいながら日常、起業家やベンチャーキャピタルの方々と多くの時間を共有しており、ベンチャーに共感を持った人たちです。ベンチャー企業として大企業と付き合うのであれば、是非この人たちを最大限活用して下さい。 

ただ、通常CVC部門やベンチャー窓口担当者は社内でのステータスはあまり高く有りません。 

なぜならCVCの仕事は、具体的な数値でその功績を図る事が難しく、社内では価値を生まない部門と思われがちだからです。影響力に対する過剰な期待は出来ないかもしれません。 



[みんなCVCの時代へ?] 

実は、日本には独立系のVCがあまり多くありません。金融機関(銀行、証券、生保、損保)系や事業会社系のVCが特に多いのが特長です。金融系VCも、投資収益(も勿論重要ですが)そのものよりも将来の顧客創出などの意味合いも持ち広義にはCVCの一種とも言えます。単にキャピタルゲインだけが目的であれば、有力なファンドに投資をすれば良い分けですから。 

その独立系VCも、特に日本では機関投資家からの出資が極めて少なく、事業会社からの投資及び官民ファンドからの出資に依存しがちです。事業会社は、CVCと同様、事業上のシナジーや新事業創出を投資の目的としていますので、事業会社から多く資金を得れば得るほど独立系VCもCVCっぽくなります。 

そういう意味では、日本のVCは、一部を除いてみんなCVCという心構えでも良いかもしれません。ベンチャー企業に取ってCVCとの付き合い方はマストになるかもしれませんね。 



[最後に大企業の方々へ] 

大学の先生から聞いた話ですが、研究開発に関して「ベンチャーと大企業での生産性に差は無かった。」という研究結果があるそうです。それはそうだと思います。ベンチャーの本質は優秀な人材が成熟した組織の呪縛を逃れる事により大企業でも起こせるはずだったイノベーションを実現することだと思います。世界中を駆け回って掘り出し物を見つけるだけではつまらないと思います。自分たちが持っている物を思い切って斬新な組織を作って移植してみたり、自らの企業文化から派生するイノベーションの限界を理解した上で、表面的な技術だけでなく、組織論的な観点からベンチャーの活用を考えて頂ければと思います。あと、シリコンバレーには世界中の企業が既に終結しています。もう少し足下にも目を向けられてはいかがでしょうか? 



[もう一つ最後にVCの方々へ] 

昨今製造業系事業会社がCVCの立ち上げやVCへの投資に関心を示すようになりましたが、事業会社の根本的な欲求は、「自社からイノベーションを生み出す技術のマネージメントプロセスをどうするのか」という事だと思います。大学っぽく表現するとMOT(Management of Technology)をどうするかです。単にニーズにあった案件を探索出来ますということで彼らが 

望む成果が出せるのか疑問に感じています。R&Dプロセスコンサルティングに長けたAdvisory Firmと協業してみる事も手かと思います。一昨年・昨年とJVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)とCVCとVCの交流の為にCVC Forumというイベントを開催しましたが、JVCAさんは今年も開催する事に前向きのようです。機会がありましたらそのような場で、技術開発イノベーションの専門家とVC/CVCで議論する場を作っても面白いかもしれませんね。 



ありがとうございました。 

ご意見ご相談ごとがありましたら下記までご連絡下さい。 

 

 

佐藤真一

Corporate Venturing Expert

shinichi4126@gmail.com

http://www.facebook.com/corporateventuringjapan (CVC情報サイト 構築中)


佐藤 真一


Corporate Venturing Expert (元サムスンベンチャー投資日本事務所代表)

Corporate Venturing Expert (元サムスンベンチャー投資日本事務所代表)
日本ヒューレット・パッカードを経て、2000年〜2007年までモトローラにて同社CVC部門、モトローラベンチャーズと連携して新事業創出を推進。2007年〜2009年日本アジア投資株式会社にて大手通信事業者との共同ファンドや上海事務所駐在などを通してベンチャーを支援、2010年〜2014年3月までSamsung Venture Investment Corporateの日本事務所代表として日本の技術ベンチャーとサムスングループとの橋渡し役を勤める。


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