コラム

世界を変えずに世界を変える


高橋 雄介

AppSocially Inc.
CEO

アントレプレナー

2014/02/05 14:51



僕らの製品は、世界を変える事ができる信じている。世界を変えずに。僕はこれが重要だと考えている。

僕らはAppSociallyというモバイルのアプリを友達に紹介するためのプラットフォームを提供している[1]。アプリが気に入った際に、「友達に教える」「友達を招待する」といったリファラル機能だ。この機能は、今日の、すべてのモバイルアプリ開発者と、モバイルアプリのユーザにとって、非常に重要である。

図1. AppSociallyはモバイルのアプリの友達招待機能を提供。

 

アプリ開発者にとっては、このリファラル数(紹介や招待の回数)というのは、既存ユーザが満足してくれているかどうかを計る指標であり、プロダクト/マーケット・フィット(product/market fit。提供する製品が市場や顧客のニーズに合致している状態かどうか)[2]を計測するための重要な指標を与えてくれる。アプリのダウンロード数に比べて、アプリを人に教てしまうほど愛してくれているユーザの数が分かるので、よりアクショナブル(actionable)で、アプリを提供する企業そのものを評価する上でも需要な指標を提供してくれる。

モバイルアプリのユーザにとっては、優れたアプリを発見しやすくなるというメリットがある。多くの場合、モバイルアプリのユーザは、身近な友達や家族の影響によって、新しいアプリを発見している。Google Plusを作ったPaul Adamsの言う”少数の身近な家族や友人(small connected groups of friends)”[3]だ。そういう意味で、アプリの中に、友達に教えやすくする機能を、友達に教えたいと思う”アプリに満足した瞬間(aha moment)”に効果的に用意しておく事は、理にかなっている。

図2. 僕らの意思決定や情報獲得は少数の身近な家族や友人からの影響が大きい。

 

では、既存ユーザが、新しいユーザを引き込んできてくれる導線を戦略的かつ組織的に実現できないか。リファラルや口コミを効果的に活かす事でユーザ獲得数やアクティブ数、売上を最大化し、さらには、企業そのものの成長をも大きく牽引していこうという戦略をたどっていくと、FacebookやLinkedInなど実践的にそのあり方を模索してきた”グロースチーム”という戦略的な製品開発チームの存在にたどり着く。あるいは、その任務にあたる”グロースハッカー”という言葉を、最近では耳にするようになってきた[4]。

しかし、彼らのような成功事例が出てきている今日でも、ユーザ獲得と企業の成長を製品開発チームの仕事として、最高のユーザ体験作りを最重要戦略課題としている企業は多くない。ユーザ獲得は、PRやマーケティングチーム、あるいは、外部の広告代理店の仕事であり、製品開発チームが”製品を作る”ことと、完成した製品を”売りにいく”のは別のプロセスなのである。

では、どうしたらこの”グロースチーム”をはじめられるのか?あるいは、もう少しここまでの文脈に限定して話すなら、どうしたらモバイルアプリのリファラル数を最大化できるのか?

 

キーは2つある。戦略的に製品開発チームがユーザ獲得にあたるようにすること。もう一つは、徹底的に製品のコアバリューにフォーカス(=すなわち、前述のaha-momentであり、製品を使うユーザの心理学への洞察を深めること)することだ。

けれど、多くの企業は、前述のような製品開発とマーケティングが乖離した組織構造を持っており、簡単にグロースチームを戦略的に取り入れる事は難しい。

僕らの仕事が、世界的に評価していただいけている理由は、ここにあると確信している。

つまり、既存の組織構造や業務プロセスを大きく変える事なく、戦略的に”グロースチーム”の仕事を実践し、かつ、ユーザが満足する瞬間に関する心理学を製品開発戦略に活かしていく事ができるようにするにはどうすれば良いのかに応えるために、AppSociallyという製品が生まれたのだ。

 

AppSociallyを利用する企業の担当者は、”グロースチーム”や”グロースハッカー”がリファラルによるユーザ数の最大化と製品利用への適合を促すために行う(1)リファラル機能の実装、(2)検証に必要な指標のトラッキング、そして、(3)その結果に基づいた分析と改善のプロセスを、これまでの業務内容、組織構造のままで実践する事ができるように設計を工夫してある。

 

(1)僕らが徹底的に調査し、お客様とともに実践してきた”ベスト・プラクティス”の実際に機能するリファラル機能は1行から(カスタマイズしても最大30分程度で)お客様のアプリにインストールしていただく事ができる。

 

(2)リファラルに関連したアクショナブルな指標は、僕らのリファラル機能をインストールしていただいていれば、自動的に追跡していただく事ができる。具体的には、(a)アクティブなユーザ数、その中で(b)リファラルが友達に送られた回数、その(c)招待/紹介が開封された回数、そこから(d)ダウンロードボタンをクリックしてStoreに行った回数、そして、アプリのダウンロード後に(e)アプリを実際に使い始めてくれている人数が分かります(これはアクティブユーザ数から徐々に数字が”漏斗(ファネル)”のように減っていくので、”ファネル分析”と呼ばれている)[5]。

 

そして、(3)この分析から、例えば、(a)が少なかったり(a→b)の減少率が大きければ、アプリそのものの価値が既存ユーザにしっかり理解してもらえていない可能性が分かるので、ユーザへのアンケートやインタビューを通じて、アプリが彼らの”痛みを和らげているのか?”、”彼らの欲求を満たしているのか?”を探る事になる。あるいは、(b→c→d)の減少率が大きければ、アプリ自体については満足して(リファラルもして)もらえているけれど、それがリファラルを受け取った方にしっかり伝わっていない可能性が分かるので、既存ユーザと潜在ユーザが唯一触れる部分、つまり、レファラルとして送られるランディングページのコンテンツ、クリエイティブの改善が次の仕事になる。さらに、アプリの価値がしっかり伝わっていないと、(d→e)の減少率も大きくなるので、ここでも同じくランディングページの改善が重要になる。

 

上記のプロセスの中で、(1)と(2)についてはAppSociallyで簡単に完了する事ができいる。(3)については、既にお気づきかもしれないが、アンケートやインタビューを通じて、次の広告、PRキャンペーンを考え、クリエイティブを作っていくプロセスと同等の業務内容となっている。つまり、”モバイル・ファースト(常にユーザのポケットの中でユーザと関わる事ができる端末であるので”モバイルアプリ第一主義”と言われる)”の時代にあって、アプリを開発、提供する企業が、これまでの組織構造および業務プロセスのままで、シリコンバレーの最先端企業が実践してきたような、リファラル機能のインストールから、トラッキング、分析、改善に至るプロセスを、実践していただけるように、AppSociallyは設計されているのだ。

これは、僕らが長い時間をかけて徹底的に取り組んできた”顧客開発[6]”の成果であり、僕らの対象とするお客様の日常業務のプロセスから組織構造、意思決定の系統に至るまでを調査した結果の製品設計だ。”顧客開発”とは、Steve Blankの提唱する製品や市場の検証手法であり、失敗しにくい製品や企業の作り方である”リーンスタートアップ[7]”の基盤をなす手法だ。これらは、主にシリコンバレーの優良企業が、同じく徹底的に取り組んでいるプロセスであり、僕らの共通言語になっている。

蛇足だが、Steveの著書には、どのように顧客開発を実践するのかについてのマニュアルが詳細に書いてあり、対象とする顧客を発見し、検証する詳細な手法ともに、その過程で将来のアドバイザリー・ボードのメンバー候補との出会い方などが記されている。AppSociallyでは、書籍に書かれている手法に忠実に、サンフランシスコで顧客開発を続けることで、現在の製品のアイディア、顧客、アドバイザーボード、そして、投資家まで見つける事ができた。顧客を検証を進める中で、僕の人生が大きく変わる出会いに恵まれ、シリコンバレーに招待されるまでに至ったのだが、これはまた別の機会に話す事にしよう。

 

長くなってしまったので簡単にまとめようと思う。

 ・AppSociallyは既存の組織構造や業務プロセスを変えずに、モバイルアプリ開発者や提供企業の戦略的なグロース戦略が実践できるようにするプラットフォームだ

 ・モバイルユーザが、彼らが通常アプリ発見する自然な方法で、優れたアプリを発見してもらいやすくしている(優れたアプリに出会いやすい素晴らしい世界になる)

 

最後に、これが何より重要な事であるが、上記の成果は、僕らが”顧客開発”を徹底的に継続的に実践してきた成果であり、”顧客開発”は、他の多くの起業家や新規事業担当者の皆さん(つまり、このコラムの読者の皆さん)でも、それぞれの製品や市場、顧客を対象として、同等の成果を達成する事ができる優れたツールだ。

これからも、顧客開発の地道な実践を重ねながら、お客様の世界を大きく変えずに、彼らと彼らのお客様にとっての世界をより素晴らしいもの変えていけるように精進していきたい。

 

米国カリフォルニア州サンフランシスコにて

高橋雄介

P.S. このリレーコラムのバトンは、Sunbridge USの川鍋仁さんにお渡ししたいと思う。彼は技術者としての経験も豊富で、現在はSunbridge Global Venturesの役員としてシリコンバレーに拠点を置きながら、日本およびシリコンバレーのスタートアップを精力的に支援されている。



図3. Steve Blank氏と筆者。2013年、東京にて。

 

参考

[1] AppSocially, http://appsocial.ly

[2] Sean Ellis: "The Startup Pyramid (article)," Startup Marketing, October 5, 2012,  http://www.startup-marketing.com/the-startup-pyramid/

[3] Paul Adams: "Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter)(Paperback),"New Riders, December 1, 2011, http://www.amazon.com/dp/0321804112.

[4] 高橋雄介: “ユーザ獲得をハックする(article),” TechCrunch Japan, August 27, 2012, http://jp.techcrunch.com/2012/08/27/jp20120827growth-hack/

[5] Suhail Doshi: "Introduction to Analytics: Funnel Analysis (article)," Mixpanel Blog, June 10th, 2009, http://blog.mixpanel.com/2009/06/10/introduction-to-analytics-funnel-analysis/.

[6] スティーブン・G・ブランク: "アントレプレナーの教科書(単行本)," 翔泳社,  May 9, 2009, http://www.amazon.co.jp/dp/4798117552.

[7] エリック・リース: "リーン・スタートアップ(単行本)," 日経BP社, April 12, 2012, http://www.amazon.co.jp/dp/4822248976/.

 

●関連リンク AppSocially Inc.

 


高橋 雄介

AppSocially Inc.
CEO


Comment_u