コラム

ベンチャー企業の管理部門で働く皆さんへ


内田 健治

税理士法人フィデス会計社
代表社員 税理士

サポーター

2014/01/22 13:34



税理士法人フィデス会計社の内田です。パートナーの中森と当事務所を2010年に設立しました。お客様の中心が、ベンチャー企業や外資系企業なのは、私のキャリアに大きく関係しています。

1990年代の約10年間、日本オラクルで経理部長や財務部長を務め、同社上場をプロジェクトリーダの立場で経験することができました。その後、当時の同僚であったアレンマイナーが立ち上げたサンブリッジに2001年参画し、2010年までCFOとして管理部門を統括すると共にVC事業や自社グループのM&A・組織再編に携わりました。

本稿ではベンチャー企業のCFO像について語ろうと思いましたが、先輩諸氏のコラムに目を通したところ既に同じテーマで書かれたものがありましたので、少し視点を変えたいと思います。

昨今では、投資銀行や戦略系コンサルティングファーム出身のベンチャー企業CFOが数多く活躍されています。しかし、シードやアーリーステージの大多数のベンチャー企業では、管理部門に多くの人員を配置することができないことから、自らもプレイヤーとして実践できる若手のマネジャーもしくはその候補者が1人か2人で経理や営業事務、人事や社会保険手続き、場合によっては文房具の発注に至るまで、あらゆるバックオフィス業務をこなしている例は多いのではないでしょうか。

会社が成長するにつれて、貴方自身が成長を望むのならばできるだけ幅広い役割と責任を与えられることが必要です。つまり、貴方の上に上司が入るのではなく、貴方自身が部下を採用できる立場にならなければいけないのです。では、ベンチャー企業の管理部門のスタッフである貴方が社長から評価されるには何が必要なのでしょうか。

私自身もオラクルには28歳の時にスタッフとして入社しました。また、サンブリッジ時代には投資先の組織を見てきた経験からも、以下、ベンチャー企業の管理部門スタッフに求められる能力や私自身がこんなことをやってきたということについて順不同に思いつくままを述べます。



・数字に強く論理的な思考ができること

[資金調達・事業計画]

ベンチャー企業であっても社長は計数感覚に長けた人が多いのですが、肌感覚で理解しており自分の掴んでいる数字の根拠や外部に対する説明が上手ではない人も数多くいます。スタートアップの資金調達は社長の仕事ですが、事業計画の策定においては社長が語るビジネスの言葉を整合が採れた数値に翻訳するのは貴方の役割です。

 

[バーンレート・経費コントロール]

現状の資金状況でいつまでビジネスが続けられるかをベンチャー企業は常に把握している必要があります。毎月、誰に何の経費をいくら支払っているのか、その経費は直ぐにでも止めることができるのかを把握するのは貴方の役割です。

この感覚は、会社のステージが進捗し、経費のコントロールをする場面でも役立ちます。つまり、売上についてはお客様が主導権を握っていますが、費用については貴方の会社が主導権を握っており、継続するのも止めるのも貴方の会社の意思次第なのです。

 

[予実分析とKPI]

VCからの資金調達を検討するフェーズでは、既に予算を策定し月次で予算実績対比を行うのは貴方の仕事になっているかもしれません。またIPOの過程では主幹事証券から詳細なコメントが付された予実の差異分析が要求されます。これら業務を否定するつもりはありませんし、制度上や仕組上で求められるものであればそつなく対応するべきです。

しかし、人件費やファシリティコスト等の固定費が中心のIT系ベンチャーの場合には、費用面において原始予算との対比に時間をかけるより、先4四半期程度の期間を対象とした着地予測を重視した方が良いと考えています。また、売上面においては、KPI等の指標を導入することは重要であると考えています。しかしながら、社長からの何となくの要求や管理部門のアピールのためにこれら数値があるわけではありません。例えば貴方が営業部門のリーダーのもとに出向き、彼が売上実現のプロセスをどう考え、配下の部下にどのような行動をとってもらいたいかをヒアリングした上で、KPIを提案してみたらいかがでしょうか。KPIは数値の傾向値をみることで行動レベルの改善を促すことができる項目に絞り込むべきです。



・業務改善を常に考え、複雑な業務を単純化しルーティンワーク化できること

[月次決算]

日々の取引を記帳し月次決算を行うのは、付加価値の低いルーティンワークだと考えられています。一般的には、単なる分類や集計など付加価値の低い業務はアウトソーシングして、皆さんは高付加価値の業務に集中しましょう、等々が語られることがあります。一面、真理ではあるのですが、ルーティンワークであるはずの仕訳入力の品質が安定せず、月次決算が半月を経過しても締まらないというようなベンチャー企業は数多くあります。日常の業務を徹底的に単純な業務に分解してルーティンワークに落とし込むまでの仕組み作りは貴方の役割です。

例えば月次決算については、スケジュール表とやるべき事項のチェクリストを作成し、網羅性の確保に努めましょう。この際、年次決算や四半期決算でしか行わない事項は極力減らし、こんなことまで毎月やるのという事項も月次決算に織り込みましょう。私の経験では、たまにしかやらない事項は記憶に定着せずに結局時間と手間がかかります。

また、他部門から入手する情報は、その流れと加工の仕方を明確に定義づけましょう。毎月どのタイミングで誰からこの情報を入手し、二次加工の必要があればインプット項目と加工が必要な演算部分、その結果としてのアウトプット項目を明確にエクセル上で表現するようなイメージです。何を当たり前なことをと思うかもしれませんが、情報の入手方法やタイミングも毎回バラバラで、二次加工も簡単な計算なので一次情報を見ながら電卓をたたいた結果を直接仕訳入力し、後でこの数値はどこから出たのだろうと、過去のメールやエクセルをひっくり返すというようなことが頻繁にあちらこちらで行われています。

こんなことを意識しながら仕組み作りがきちんできるようになれば、作業自体はジュニアスタッフが行っても、月初4営業日ぐらいまでには、ほぼ年次レベルと同様の月次決算が組めるようになります。

ちなみに、当時は売上規模が数百億円の会社でしたが、本決算であっても4営業日目までには表示を含む決算書を取りまとめ、税金も100円単位で計上しほぼ数字が動くことはありませんでした。

 

[社内業務のシステム化]

組織が一定の規模になるとシステム化によって業務の正確性や効率性が求められるようになります。私自身、コードがかけるわけでもITの知識が特別あるわけでもありませんが、自社ERP製品を社内導入する際のユーザー側責任者や、それ以前には販売・在庫・買掛・固定資産などスクラッチからのシステム開発にもユーザー側メンバーとしてたくさんのプロジェクトに携わってきました。

月次決算の項でも述べましたが、管理部門スタッフは、日常業務を単純業務としてルーティンワークに落とし込む作業、必要とされるアウトプットデータを作成するためのインプットデータとその加工等、システム化以前から社内の情報の流れを最も理解することのできる部門に所属しています。システム化のプロジェクトには積極的に参加することで大きな貢献ができるはずです。



・自らの顧客にロイヤリティを持って接すること

[事業ラインを徹底的に支援しよう]

経理や人事・総務などの組織は一般的に管理部門と呼ばれます。しかし、営業部門が自社製品やサービスをお客様にお届けするのと同様に、管理部門にもお客様が存在します。

経理部を例に取ると、税務者や株主、上場企業であれば投資家といった外部顧客には、一般的に法制度に準拠した会計情報を提供することになります。またこれら外部顧客以上に重要なお客様は、内部顧客であるCEO/COOの経営陣であり、製品の販売やサービスのデリバリーを行っている各事業部の部門長です。経営陣に対しては戦略立案や意思決定に役立つ情報を提供し、各部門長には業務の最適化と効率化を支援する情報を提供し、ときには問題の把握と解決に向けた知恵を一緒に絞ることになります。

貴方は、貴方のお客様である経営陣や各事業部門から、リクエストがあった場合には迅速に対応するばかりでなく、常日頃から彼らの抱える疑問や課題を把握し事前にその解決に努めなければいけません。例えば、各事業部長と定期的に1on1のミーティングを持ち、重要な事業部ミーティングにも定期的に出席させてもらい、彼らにとって徹底的に便利な存在となり信頼を勝ち得なければいけません。

 

[内部統制は誰のためにあるのか]

皆さんの中には、制度や仕組み・社内ルールを作ることで内部統制を構築し、従業員を管理・監督することこそが、管理部門の重要な役割ではないのかと考える人もいるでしょう。しかし本来の管理・統制の対象はビジネスリスクであり、これを適切にコントロールすることで、そこに働く者が安心して事業に取り組める環境を作ることです。私自身は、法律や諸制度もこの基準を守っている限りは、自由に競争していいよという基準であり、これがあるからこそ諍いや紛争はごく一部の事象に限られ、取引コストも低減が図れるのだと考えています。

しかし残念なことに、施行当初は目的・意義があったルールも、いつのまにか形骸化し環境が変わったにも関わらず、その運用だけが継続している場合もありますね。このような時には、その制度・仕組みやルールが社内のものであれば、その存在意義をもう一度明確にした上で、必要があれば変更・廃止を即座に行うことが大切です。この時気をつけなければいけないのは、個別取引についてルールを逸脱する特別処理を認めるべきではなく、あくまで不合理なルールを変更するのだという意識を事業ラインにも共有してもらうことです。

制度や仕組み・社内ルールは、決して貴方の権威付けのために存在しているのではなく、各事業ラインが事業を効率よく適切に推進するために存在しているのです。



・仕事の垣根を作らないこと

「これは私の仕事ではありません。」と言って、自ら仕事の領域を限定することは良くないことです。スタートアップのベンチャーでは、ただでさえ少ない人数で運営をしているのですから、誰の担当でもない業際の仕事や雑事が山のように発生します。そんな時には傍観するのではなく、躊躇せず積極的に手を挙げて自ら仕事の領域を拡大してください。

自分が経験をしたことのない業務でも、インターネットや書籍を通じて情報には簡単にアクセスすることができます。また専門性の高い分野に関しては我々のような士業を利用することです。上手に外部専門家の知恵を利用すえば、それ以外の項目については少々のミスや知識不足が会社を潰すことはありません。

否が応でも、組織規模が拡大してくれば業務分掌がうまれ、仕事の範囲は明確になってきます。組織が小さいうちにこそ、恥をかきながらでも新しい知識と実務での経験を蓄積し、守備範囲を広げる努力をすることです。



最後に

普段はベンチャー企業の主役ではない管理部門の若い皆さんに対して、少しだけでも考えるヒントになるようなことがお伝え出来ればと考え、拙い雑文をお届けしましたが、最後にもう一言だけメッセージを贈ります。

Exit手段は多様化したとはいえ、IPOに至る企業は年間数十社からどんなに多くても200社程度です。やる気と能力のある経営者の元でも、残念ながら成功に至る会社はほんの僅かなので、全ての人がベンチャー企業を志向する必要はまったくありません。ましてや、管理部門はビジネスそのものを実行する立場にはないので、自分の頑張りと企業の成長の相関性はより少なくなるのです。

とはいえ、ベンチャー企業では、大企業で10年かかる経験が1年や半年で得ることができます。目の前の事象に全力で取り組み、人を支援・応援することが楽しくて、自分の能力やスキルを猛烈なスピードで成長させたいと考える者は、できるだけ若い時期に、ベンチャー企業に飛び込んでみてはいかがでしょうか。

 

●関連リンク 税理士法人フィデス会計社


内田 健治

税理士法人フィデス会計社
代表社員 税理士

コンビニエンスストアの経理部門、渉外系法律事務所の会計部門を経て  
1991年 日本オラクル株式会社 経理部長、財務部長、同社IPOプロジェクト責任者
2001年 株式会社サンブリッジ 取締役管理本部長兼グループCFO
2010年 税理士法人フィデス会計社代表社員 税理士内田健治事務所を開設後、2012年に税理士法人化


株式会社ジャパンベンチャーリサーチ
Ichinose Yumi*
2014/1/22 14:39

大きな気付きをいただいた素晴らしいコラムをありがとうございました。コラムは管理部門の方へ向けてのメッセージになっていますが、仕事への取り組み姿勢は管理部門の方だけでなく、ベンチャーに身を置くすべての方に共通するものだと思いましたす。改めて自分の仕事の仕方を見直し、事業成長のために自分ができること、すべきことを考え業務に活かしていけたらと思います。

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