コラム

資金調達の基礎


上原 将人

上原公認会計士事務所
代表

サポーター

2013/12/02 10:29



いずれのベンチャー企業も資金調達に悩まれていることと思います。株式上場(IPO)の確度が高いと期待されるのでなければベンチャーキャピタル(VC)からの資本調達は難しく、金融機関からの融資や経営者の家計を含む自己資金に依存せざるを得ないのが現実となります。

経営者が「IPOを目指している」といくら宣言してみてもVCから資金が調達できるわけではありません。VCも事業としてベンチャー投資を行っている訳ですから、儲かる可能性と投資リスクを比較して投資するか否かを判断することになります。

 

○VCの目線

VCはどのような投資先を探しているのかといえば、IPOやM&Aによってキャピタルゲインを得られる可能性が高い投資先です。事業実績(製品やサービスの市場性)や経営者の経営力をどうみるかにかかってきます。どんなにトンガッタ技術であっても事業化できないのであれば、出口に到達することはできません。

VCはこれらを経営者の過去の実績(過去の決算書、新規起業の場合には勤務時代の実績)と経営計画書に基づき判断しようとします。これらは投資稟議に必須となる書類です。

 

○大切なのは実績を積み上げること

しっかりと売上を確保し、収支を合わせることは経営そのものです。最初から十分な資金を確保して起業する会社はほとんどありません。設立費用の30万円程度を準備できれば、誰でも社長になることができます。問題は社長として限られた資金と人材で事業を立ち上げることができるかです。創業融資制度では十分な資金調達とは言えないかもしれませんが、その少ない資金でどれだけの勝負をできるかは社長の力量そのものです。実績の積み上げは経営者の経験値を高め、外部からの信用を高めることになります。融資枠も徐々に拡大していくことでしょう。この試練はVCからの資金調達できた場合にも、IPOにより市場から資金調達した際にも、有益な経験となることでしょう。

IPOを議論する前にきちんと事業を立ち上げ、事業拡大のための投資ポイントを明確化していくことが大切だと思います。このポイントが明確であればVC等の第三者資本の導入時の事業計画に説得力が増すことは間違いありません。

 

○事業計画は普段から作成する

普段は作成していないのに資金調達の必要に迫られて事業計画を作成する会社があります。

このような場合、『いくらの調達がしたいから、どのような計画にする必要がある!』といった思考になってしまうことがあります。本来は、『成長のために何をする必要があり、そのためにいくらの資金が必要かを検証する』というロジックのはずです。投資計画段階では調達方法は融資でも増資でもよいですよね。

経営者は事業をどのようにして成長させるかを真剣に考え続けています。その考えを事業計画に落とし込めばよいだけです。普段から考え抜いた事業計画、連帯保証してでも実行する価値があると確信する事業計画は体裁の巧拙はあっても立派な計画なのです。経営者の魂がこもった事業計画ともいえるでしょう。

優れた事業計画には、その実現のための考慮要因が網羅されています。そして、計画した目標に向かって会社の行動を統制し実現させる組織文化を会社に組み込む必要があります。絵に描いた餅の事業計画を作成しても、誰もその計画を意識して日々の活動をしていないのであれば意味はありませんし、説得力もありません。組織で使う以上体裁がカッコよくなくてもいいので紙に落としたものである必要があります。このような事業計画が存在していれば、資金調達時にバタバタすることはありません。

 

○きちんとした決算を行う

VC等からの資金調達にあたり、監査法人や公認会計士による財務デューデリジェンスを求められることが多くあります。財務デューデリジェンスとは、会社が行ってきた決算が適切な会計処理に基づいていることを確認する手続きです。上場会社が行う決算は非上場会社が行ういわゆる税務会計とは異なる点が多数あります。たとえば、引当金会計や減損会計、資産除去債務会計などです。

財務デューデリジェンスでは、貸借対照表に不良化した資産が計上されていないか、売上計上基準や原価認識基準が財務会計とどのようなギャップがあり、上場会社の会計基準を適用した場合にどれほどの収益性が認められるかを確認する手続きです。赤字決算を回避するために減価償却費の計上を調整していたり、不良債権を損失処理しないできた場合、実態純資産は大幅に減額されてしまうこともあります。

ここで大切なのは、上場会社基準の決算を行っていることではなく、税務会計の基準であったとしてもきちんとした決算を行ってきた事実です。粉飾決算はすぐに発覚してしまうでしょうし、その事実は経営者の姿勢としてマイナス評価につながります。当然VC等からの評価はガタ落ちになってしまいます。

 

○資本政策を考える

外部から資本提供を受ける場合、資本政策を考えておかなければなりません。資本政策は資金調達の方法と時期、株主構成及び出口を整理したシミュレーションです。

株式会社は、株主の議決権行使により重要事項が決定されます。株主総会では多数決原理で物事が決定されることになるので、外部資本導入後やIPO後に安定的な会社運営ができるよう配慮しておくべきです。

IPO後も経営陣が50%超の議決権を握っていることが理想となりますけど、実際にはそううまくいくものではありません。事業計画遂行上の必要資金の調達額と株式シェアをどのラインで調整するかが資本政策のメインテーマといってもよいでしょう。

VCの立場から見ると可能な限り多くのキャピタルゲインを期待できるように投資株価と株式数を確保するかが主題となります。経営者の立場とは明らかにベクトルが異なります。資金調達の際にVCから資本政策が提案されることが多いのですが、会社の立場からこれをきちんと評価するか、会社主導で資本政策を検討することが大切です。

 

○小手先で考えない

経営者の立場からすると、VCからの調達資金はできるだけ多く、かつ、VCに所有される株式数はできるだけ少なくしたいということになります。

資金調達額=発行株価×新規発行株数

となりますから、株価を高く設定できれば、上記の問題を解決できます。

しかし、そんなに都合よく株価を設定できるものでしょうか?

DCF法を適用すれば、色々な株価を設定することは可能です。事業計画から計算される将来キャッシュフローを現在価値に割引計算することで株価を計算する方法であるため、事業計画の数値を変更すれば計算結果が変わってしまうものだからです。

ところが、公認会計士が作成した株式価値計算(DCF法によると思われる)が原因で公認会計士が逮捕される事件が発生して以来、日本公認会計士協会は会員にDCF法により株価計算業務を行う際には、計画そのものの当否を含めて十分な検討を行うべきことを求めるようになりました。起業当初は十分な実績がないうえ急激な成長を前提としたベンチャー企業に対してDCF法を適用することが非常に難しくなったのと同じで、計画自体もかなりしっかりしたものが作成されていなければなりません。

意図的につり上げられた株価をそのまま受け入れるVCがあろうはずもありません。特に創業当初にVC資金を導入する場合には低めの株価を条件とされる可能性が高くなります。

 

○公の会社になる覚悟をする

IPOはInitial Public Offeringの略です。公の会社になることを意味します。

非上場の会社であれば、事業投資判断に失敗しても、役員報酬をいくらに設定しても、交際費をいくら使っても、会社で社宅を購入しても、高級車を購入しても、すべて経営者の自己責任で済ませることができました。

IPO後はそうはいきません。会社業績は定期的に公表され、経営の巧拙が市場で評価されることになります。じっくり投資を仕込んでいる最中であっても、投資家は短気なものです。現在のようなネット社会では、投資家は大群となって日々の株価変動に対して容赦なく批判を浴びせてくるかもしれません。上場会社の社長のプレッシャーは非常に大きなものとなります。

IPOにより創業者利潤を得られるとか、多額の資金調達ができるというメリットばかりでは決してありません。

株式を公開するということは、これらのプレッシャー(応援であることも多数ありますが)を乗り越えて、社会に成果を還元する使命を負うことなのだと覚悟しなければならないのです。

これから起業を計画しておられる経営者予備軍の方、すでに起業しIPOを目指して日々戦い続けている経営者の方、みなさんは非常に勇敢な人です。

事業に投下される人生の時間は膨大なものとなるでしょう。膨大な時間の積み重ねと行動力が事業成功のカギを握ることになります。その際に忘れてはならないのは、その事業に対する信念と王道を往くことだと思います。

本稿は資金調達の基本について概観いたしました。企業活動に不可欠な資金調達においても王道を往くことが何よりも大切だと私は信じています。みなさんの事業が成功することを心より願っております。

次のバトンは、組織再編その他の特殊な商業登記を得意とする司法書士の富田太郎先生につなぎます。

以上

 

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上原 将人

上原公認会計士事務所
代表


北村 彰
株式会社ジャパンベンチャーリサーチ
2013/12/16 09:08

上原先生には2000年株式会社salesforce.comを設立した頃、その事業立ち上げで大変にお世話になりました。 当時事例が無かったSAASモデルの売上処理、4半期にVersionUpする開発費の計上、USとの会計基準GAPなど難題多く多大なサポートをいただきました。 まだ事業開発途上で赤字構造の消費税対策など多くを相談させていただきました。
大学発ベンチャー支援、IPO支援など豊富な経験を持たれている上原先生からの起業家への貴重なメッセージです。 
上原先生、ありがとうございます。

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