コラム

投資型クラウド・ファンディングの可能性について


赤井 厚雄

ミュージックセキュリティーズ株式会社
取締役

研究者

2013/10/30 13:32



わが国のベンチャー企業の多くは、資金調達面での課題を抱えているといわれています。これは、米国等の諸外国と比べて間接金融部門(銀行部門)が圧倒的に優勢なわが国の金融システムの成り立ちによる部分が大きいと私は考えています。

この国には約1500兆円の個人金融資産がありますが、その半分以上は預金として銀行に預けられており、銀行のバランスシートを通っていったん預金となった資金を長期の投資資金やベンチャー企業の成長のためのリスクマネーとして積極的に振り向けることは困難といわざるをえません。これはある意味で当然のことです。

 

つまり、虎の子の資金を銀行に預けた個人の立場に立てば、預けたお金を流動性の低いスタートアップ段階の事業や長期投資に大きく振り向けられては、自分のお金をいざ引きおろそうとしたときに金融機関が対応できなくなるリスクが大きくなるわけで、そんなことを勝手にされたらこまるといわれてしまう訳です。

これをまた銀行の立場に立てば、長期の投資や流動性の低い投資案件に資金をコミットし過ぎてしまうと、先の金融危機でわれわれが現実に目撃したリーマンブラザーズの破綻を例に挙げるまでもなく、短期金融市場の流動性が失われてしまう局面に、資金繰り難による破綻のような事態が発生し、金融システム自体の安定性が失われるリスクが増大することになります。もちろん、これは、個々の金融機関も金融当局も望むところではありません。

 

結果として、銀行は好むと好まざるとを問わず、徹底したリスク管理を求められることになります。そのリスク管理の枠組みには、銀行など個々の金融機関の自主的な判断によるもの、銀行監督当局である金融庁の与えた枠組みによるもの、さらにバーゼル委員会など国際的な規制の枠組みにもとづくものなど様々な階層があり、それらは決してバラバラに存在しているわけではありませんが、総体としてみるとこの20年ほどの間に規制の強化が進み、その国際的な標準化も進み、我が国の金融機関にとってはかなり重荷になってきているというのが現実です。

国内におけるバブル経済の崩壊やそのあと延々と続いた不良債権処理と、不動産に代表される資産価格の長期にわたる下落傾向つまり資産デフレ、さらに上に述べた米国発のサブプライム問題に端を発する世界的金融危機など、金融システムに大きな負荷がかかる出来事が内外で相次いで起こったことを思い起こせば、それはある意味でやむを得ざる流れともいえますが、銀行を中心とした金融機関のリスク管理や金融監督当局の姿勢が、どちらかといえば「金融システム自体の安定化」にもっぱら軸足を置くものとなることで、肝心のお金はがんじがらめとなり、金融システムの資金仲介機能は低下、そのしわ寄せが中小企業・小規模事業者、ベンチャー企業や、長期の資金コミットメントが必要なインフラ事業などの分野に向かってしまい、それへの後追い的対応として、国が国債を発行して調達した資金で支えざるを得なくなっているといういびつな構造ができあがってしまっています。これは巨額の民間金融資産を有する日本という国にとって必ずしも好ましいこととはいえません。

 

米国では、この間接金融部門とは別に株式や債券、証券化などに代表される活発で巨大な資本市場部門の存在があり、その存在感は商業銀行をしのぎます。そしてその一部を構成するVC(ベンチャーキャピタル)などの民間ファンドが新規成長分野への資金仲介機能を、年金投資家などが不動産やインフラ事業への資金仲介機能をになうという仕組みが確立しています。

結果として、銀行部門における資金仲介機能の少々の不振は、政府の介入ではなく、民間資本市場部門の活動によって帳消しになっていると言っても過言ではありません。たとえば、米国のベンチャーキャピタルと日本のそれを比較すると、まずその市場規模においては約10倍の差があり(GDP比では約6倍の差)、投資対象業種ごとの1件あたりの投資金額でもバイオテクノロジー分野で16倍、クリーンテック関連分野で22倍、コンピューター・関連機器分野で13倍など彼我の差には大きなものがあります。

シード(Seed)、アーリー(Early)、エクスパンション(Expansion)、レイター(Later)といった4つの投資ステージに分けてベンチャー投資の市場規模をみると、日本では第3段階のエクスパンションがもっとも少なく、2011年の統計で日米の差は200倍超(日本では48億円に対し、米国では9824億円)となっています。エクスパンション段階の事業への投資が少ないということは、日本において基礎的な技術の事業化・商品化・量産化といった分野への資金供給が制限されているということになり、バイオやテクノロジー分野のいわゆる「ものづくり系」のベンチャー企業にとっては成長への大きな制約要因となっているといえるでしょう。この事態をこのまま放置すれば、日本の本来の強みである「ものづくり」が弱体化し、将来日本経済の国際競争力が低下する懸念があります。

 

安倍政権の登場にともない、民間の資金余剰セクターに温存されている資金をこれまでと違った形で動かして、それに相応しい資金ニーズと結びつけることで、こうした閉塞状況を打破していこうとする官民をあげた取り組みが活発になってきました。その一つが「企業のベンチャー投資促進税制」であり、もう一つが「投資型クラウド・ファンディング」の市場環境整備です。

 

「企業のベンチャー投資促進税制」では、産業競争力強化法(仮称)の下で、企業によるベンチャーファンドへの出資額の一部(ベンチャー企業への出資額の80%)を「損失準備金」として積み立て、損金参入を認めることで、個人と並ぶ資金余剰セクターである大企業によるベンチャー投資をうながすことを意図しています。「企業のお金を動かす」重要な企てです。

 

一方の「クラウド・ファンディング」は「新規・成長企業と投資家をインターネットサイト上で結びつけ、多数の投資家から少額ずつ資金を集める仕組み」と言われています。少額の資金を主として個人(最大の国内資金余剰セクター)から直接集めてファンド化することがポイントで、「少額であればリスクがあっても投資したい」、「少額であれば利回りが高くなくても投資をしたい」という個人の志ある余裕資金を、上で述べた銀行とは異なるその本来のリスク・リターン特性を失わせないようにしながら、ファンドを通じて様々な事業への投資に直接結びつけることを可能にする枠組みです。

インターネットの発達によって、少額の個人資金を低コストで集めて束ねることが可能となった、いわば金融イノベーションの賜物で、「個人のお金を動かす」画期的な企といえるでしょう。

 

クラウド・ファンディングというと、米国などの最近の事例が取り上げられることが多いのも事実ですが、その歴史をたどると、実は日本が先鞭をつけた分野であることは特筆すべきです。

日本国内では、すでに10年以上の実績のある金融スキームとして、「匿名組合出資」という枠組みが用いられ、クラウド・ファンディングという言葉が使われるようになる以前から、何百というファンドが国内で組成されています。また、このスキームは「マイクロ投資」とも呼ばれ、その初期の代表例には各種の音楽ファンドなどがあり、東日本大震災の後では同じ枠組みを用いた「被災地応援ファンド」などが被災地の事業者に全国の個人の小口投資資金を送り届ける仕組みとして幅広く活用され、メディアでも大きく取り上げられました。

そして、その仕組みを酒蔵など各地域のリソースを生かした伝統的な産業や農林水産業の6次産業化、地域の賑わいを取り戻すためのプロジェクトなどに積極的に活用しようというのが「ふるさと投資」(内閣官房地域活性化統合事務局)の考え方で、地銀や信金など地域に密着した金融機関による取り組みが全国で浸透し始めています。こうしたスキームをさらに展開して、新規・成長企業への資金供給強化にも活用しようというのが、今回の企ての背景にある考え方です。特に、国内のベンチャーキャピタルが手薄な基礎技術の事業化や量産化などエクスパンション段階にある事業、とりわけ大学などの研究機関や中小・中堅企業の資金需要に対応し未来の「ものづくり」産業の活動を強力に後押しすることが期待されています。

 

マイクロ投資は、上で述べたように国内で10年以上の実績のある、いわば日本発の金融スキームです。その潜在市場規模は約2兆円(国内金融機関の預貸差額200兆円の1%)というのが筆者の試算で、それ自体が新たな金融産業クラスタとして成長する可能性を有していますが、だからといってそれは「なにもしなくても、どこからともなくお金が降ってくる」ような、打ち出の小槌ではありません。

投資型クラウド・ファンディング市場は、金融商品取引法の枠組みに準拠し、投資家の保護などに配慮した金融商品であり、第二種金融商品取引業者を担い手として厳しい規律のもとで(それゆえにこそ)持続的な市場拡大が進むことが期待されています。したがって、そこにアクセスし、これを活用しようとするベンチャー企業や地域の事業者にも同様の高い水準の自己規律と投資家に対する説明責任がもとめられているのは当然で、それと引き換えにこれまでの金融システムからは提供されにくかった「長期・リスクマネー」へのアクセスが可能になるのだと理解すべきでしょう。

官民の協力のもとで環境整備が進む日本発のこの金融システムを活用し、将来日本を牽引できるような規律あるベンチャー企業や地域発の個性ある元気な企業が数多く誕生することを期待しています。

次のコラムはアントレプレナーのためのエコシステム構築などにも取り組む新日本有限責任監査法人のパートナー長南伸明さんにバトンをお渡しします。

 

●関連リンク
ミュージックセキュリティーズ株式会社


赤井 厚雄

ミュージックセキュリティーズ株式会社
取締役


株式会社ジャパンベンチャーリサーチ
北村 彰
2013/11/14 15:15

赤井さん 力作をありがとうございます。 日本のベンチャーファイナンスの構造と課題、そして期待される投資型クラウド・ファンディングの内容が解説されています。 テキストになります

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