コラム

求められる大きな視点 - 世界に向けて


照沼 大

日本ベンチャーキャピタル株式会社
担当部長

VCキャピタリスト

2013/09/04 14:30



【はじめに】

メンバーズ剣持社長からバトンを受け取らせて頂き、執筆陣のコラムを改めて拝読したところ、スタートアップの皆様にとって、具体的で有益な寄稿の数々が掲載されておりました。私も普段、現場でミクロ的で具体的な活動ばかりしておりますが、今回、思い切って、少し抽象的で提言めいたことを書かせて頂こうかと考えました。どこまでお役に立てるか分かりませんが、多少でも皆様の一助になれば幸いです。



【改めて問いたい、ミッション・ビジョン】

日本では、メガベンチャーが出現しない、と言われて久しいです。中には、Google、facebookのようなスタートアップは、日本からは生まれない、と言う論調も少なくありません。VCの仲間とは、高度経済成長期が終焉した後に、世界からみて、日本を代表すると言えるまでになった企業が出ているとは言えない、との話にもなったりします。

実は、これは日本に限ったことではなく、この20~30年くらい、世界的な知名度やユーザーを得て、その国を代表するような企業を次々と輩出しているのは、米国のみと言っても良いかもしれません(それだけ世代交代や新陳代謝も激しい訳ですが)。企業の規模を測る一つの指標である時価総額が、未公開時点で1兆円を超えるようなケースも、米国以外では、寡聞にして聞いたことがありません。

なぜ米国では、そのような企業が輩出されるのか?

その大きな理由である、シリコンバレーのエコシステムについては、様々なことが書かれているので、詳細はそちらに譲るとして、少し視点を変えて現場の感覚で見ると、企業として取り組もうとしているテーマ設定の大きさに、大きな相違を感じます。

これは、解決しようとする社会的課題の大きさを反映しており、ミッションやビジョンに表現されています。米国のメガベンチャーとなった企業のミッション・ステートメントは、簡潔でありながら響くものが多く、有名なところですと、Googleのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」で、正に今、それを体現していますし、facebookは「世界をもっとオープンにし、つながりを強める」で、ユーザーはその恩恵に浴している、と言えると思います。

さて、ミッション・ビジョン(・バリュー)を合わせて経営理念と呼んだり、クレド・フィロソフィーを行動指針と呼んだり、伝統企業であれば社訓・家訓があったり、経営哲学があったりと、それぞれ会社で、それぞれのスタイルで策定されていますが、特に何も作っていない会社もあります。かねてより、これら経営理念などが業績にどれだけ影響があるか研究が行われて来ており、有意な差まで認められないというケースもあるようですが、総じて、業績に好影響があるという研究結果が多いようです。

結果論になりますが、経営理念などを策定するのは、企業にとって必須と言って良く、更に視座を高めて行くことが必要、ということになると思います。Googleとfacebookのミッション・ステートメントに「世界」という言葉が入っているのも印象的で、それが入っていれば良い訳ではないですが、元々、解決しようとしている社会的課題が大きいので、いきおい、事業のテーマ設定が大きくなるのは自然なのだと思います。

時折、VC仲間との間で、「あのスタートアップ企業は、チームメンバーは秀逸なのに、なぜ、あの事業に取り組んでいるんだろう?」、という話になることがあります。

人間、やりたいことをやるのが最も幸福と言えますが、最近のIT・ネット分野で、若くて優秀な起業家がどんどん増えてきている中、もっと広がりのある事業テーマや大きな課題に取り組んだ方が、能力を活かされ、社会的意義が大きいのに、と思うことも有ります。

実は、ミッション・ビジョンなどを練り込むのは、労力の要る作業です。まず「誰のため」「何のため」に事業をやろうとしているのか、よくよく見つめ直し、その上で、皆に理解したもらうため、簡潔でありながら、適切な表現にせねばなりません。それを話し合うための経営チーム合宿をしている会社もあるほどです。また、自らの知見を高めるために、日々の研鑚も必要です。しかし、やればやるほど、良くなっては行きますし、練られた言葉は浸透もしますので、是非、考え抜いて頂ければ、と思います。

一方、我々VCのような投資家も、スタートアップの方々に、ついつい短期的な成果を求める余り、知らず知らずのうちに、目標を低く誘導してしまう可能性を認識しておいた方が良いと思っています。勿論、実現できないような目標設定をしてもいけないですが、「ロマン、ソロバン、ガマン」という言葉は、我々投資家にも当てはまると思っており、良きビジネスパートナーになれるよう、見識を高め、努力していかねば、と思っております。



【日本からの世界への提案できること】

さて、私も日本からGoogleやAmazonのようなICTのメガベンチャーが出現することを願って止まない派ですが、一方で、ICTの共通言語が英語である以上、それはなかなか難しい、という論調が存在しているのも知っております。

夢は持ち続けますが、ひょっとしたら、得意分野を活かし種目は選んだ方が良いのかも知れない、と思うこともあります。

これは議論の絶えない難しい話なのですが、その中で、良く言われているのが、次のような分野ではないでしょうか。

・ 日本の職人技は、引き続き世界で一番。工作機械を作るための工作機械(マザーマシーン)が製造できるのは、今もドイツと日本だけと言われている。洋菓子の世界で、日本のパティシエは、本場フランスでも評価を高めており、ミシュランの星を取る日本の飲食店も多い。

・ 日本流ホスピタリティ、いわゆる「おもてなし」文化の評価は世界的に高い。

・ 高齢化・成熟化において、日本は課題先進国だと言われている。これらに付随する課題の解決策が見いだせれば、今後、急速に同じ道を辿ると言われるアジア各国にも求められる可能性がある。

他にも色々とあると思います。是非、考え抜いて、時には皆で知見を交換し合って、社会全体の、そして、世界の問題解決に一緒にチャレンジして行ければ、と思います。



【最後に】

素晴らしい経営者は読書家であることが多いですが、時事性の高いものに加え、古典の哲学書や文学も読むと、より見識に深みが増すのではないかと、最近感じています。私自身、読みたい本が机に積まれてしまっている状況ですが、頑張って実践して行ければ、と思っています。

このコラムのバトンを、シンクランチ創業者・福山誠さん(現・Donuts)に引き継ぎたいと思います。SNS「ソーシャルランチ」を立上げ、16か月という短期での売却を成就させた上村康太さんとのコンビは、私の中でも、最も印象深い創業チームの一つで、起業家の皆様にとって、興味深いコラムになるのではないかと思います。

以上


照沼 大

日本ベンチャーキャピタル株式会社
担当部長


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