コラム

Start up acquisition - 成功する為の買い手のスキル


倉林 陽

salesforce.com, inc.
コーポレートディベロップメント シニアディレクター

CVC、事業会社

2013/08/07 11:14



近年、国内でのスタートアップの盛り上がりを受け、日本の大企業によるCVCファンド設立の事例が増えてきた。またベンチャーと大企業の連携を促すイベントも多く開催される等、オープンイノベーションの実現に向けた取組が盛んに行われている。また、米国に比してM&A Exitが圧倒的に少ない事も周知の事実になりつつあり、日本の大企業が買収によって事業を拡大させたりR&Dを外部化する必要があるのではないか、そしてそれがスタートアップ企業のExit手段として確立される事が更なる起業を促す筈であるという論調が展開されている。

 

こうした大企業とベンチャーのダイナミックな連携は、特にプロダクトライフサイクルが短いIT業界では有効な経営手段として考えられ、米国では事業開発上のStandardPracticeとして定着している。そしてこのシリコンバレーのイノベーションを取り込む仕組みこそが米国の大手IT企業の競争力を押し上げ、今日の日米IT大企業の時価総額、及びGlobal Presenceの歴然の差を作った大きな要因であると考えられる。

 

現在私が所属するSalesforce.com, inc.のCorporate Development部門では全社のM&AとStrategic Investmentを統括している。M&Aによって新しいプロダクトを構築する事も行っており、例えばRadian 6(2011年、$326 million), BuddyMedia(2012年、$689 million)の買収によってMarketing Cloudという製品を作り上げ、更に今月Exact Target($2.3 billion)の買収を完了し、当該製品の事業開発の加速と機能強化を実現した。

 

私は三井物産、富士通、そしてsalesforce.comでこうしたCorporate Development部門に所属したが、その経験、日米の企業比較も踏まえ、買収によるR&Dの外部化に向けた取組を成功させる為に必要な要素を三つ紹介したい。

 

・スピード

特にシリコンバレーでは多くの買い手が存在する為、業界のリーダーシップを持つ有望なベンチャー企業には多くの企業が触手を伸ばしてくる。買い手間の競争となった場合、買収の意思決定の為に長い時間はかけられない。交渉の結果、Valuationが一夜にして大幅に上がってしまう事もある。経営トップのコミットメントと権限委譲、Deal Execution能力を発揮しスピード感を持ってDeal Closeに繋げる事が重要である。

 

・プロフェッショナルチームの構築

Corporate Developmentのメンバーは買収、投資、PMI(Post Merger Integration)の専門家でなければならず、米国では社内人材の配置転換でなく中途採用によるプロフェッショナル人材の確保が一般的だ。元ベンチャーキャピタル、投資銀行、弁護士、ベンチャー経営者等多様なバックグラウンドのメンバーが、自社製品を知り尽くしている自社のプロダクト責任者と十分に議論しながら話を進めていく。こうした専門チームのメンバーを採用する為には柔軟な給与形態と権限委譲が必要だ。決して未経験者や素人を上司につけないよう気を付けなければならない。

 

・被買収先企業経営陣のRetention

ITサービス系のベンチャーの場合、IPや資産よりも経営メンバーのリーダーシップ、技術力、ビジョン、業界ネットワーク等が会社の競争力となっているケースが多く、仮に会社を買収したとしてもその会社を率いていた経営陣が離れてしまっては価値が大きく毀損してしまう可能性がある。この為主要メンバーの買収後の待遇は極めて重要だ。買収後は経営幹部やプロダクトのリーダーとして迎え入れ、数年は残ってもらえるよう適切なIncentive Structureを構築する必要がある。

この点は買収の交渉時にも重要な要素となる。会社のValuationは経営陣やベンチャーキャピタルにとって重要だが、経営陣には買収後のRetention Bonusも提示されるのでこちらも考慮に入れながら売却を判断する事になる。特にTalent Buy的に売上の立っていないベンチャーを人材獲得目的で買収する場合、会社自体には価値がつかなくともRetention Bonusを提示し、開発プロジェクトを任せる事により買収後も人材を引き留めることが可能となる。

 

こうしてBest Practiceを記載してみると、ITセクターのオープンイノベーション成功に必要な要素は、どれも従来の日本の大企業のカルチャーや人事制度とは合わないものばかりである。終身雇用、年功序列、硬直的な給与形態を維持する場合、外部人材の登用をベースに優れたチームを構成し、スピード感と結果責任を伴ったプロフェッショナリズムを発揮する事は難しいのではないか。今後は日本の大手企業よりは、むしろ社歴の比較的若いインターネット系大手企業や、米国の大企業による日本のベンチャー企業の買収事例が増えてくるのではないかと考える。自由や権限、十分なIncentiveを与えてくれる買い手は、被買収企業の経営者から見ても魅力的な売却先となろう。

 

「日本企業による米国のITベンチャー企業の買収は元々難しく、また日本には買うべきベンチャー企業が見当たらない」「ベンチャー企業が大企業のショッピングリストに見合う製品を開発すれば連携を検討する」という論調がかつて国内ITセクターの大企業で存在した。だが大手企業のプレゼンスが低下し、スタートアップに優れた人材が集まるようになった現在では最早その言い訳は通用しない。買収や投資を行ったベンチャーと共に、対等なパートナーとして革新的なサービスや市場を作り出すような取組みが求められるであろう。日本のIT大手企業の変革に期待したい。そしてベンチャー企業側も売却して終わりでなく、しっかりと被買収後に大手企業内で当該事業を拡大させ、国内ITベンチャー買収による成功事例を作って行ってもらいたい。買収企業内で十分に貢献し、M&Aを成功に導いてから次の起業をすることこそが真のシリアルアントレプレナーであり、次世代の起業家の模範となる事でもあるのではないだろうか。

 

Globespan Capital Partnersでの先輩であり、その後ロケーションバリュー社を創業し事業売却した砂川社長にバトンを引き継ぎ、日米双方の起業環境を知り尽くす起業家の目線からコメントをお願いしたい。


倉林 陽

salesforce.com, inc.
コーポレートディベロップメント シニアディレクター


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