コラム

ベンチャーM&Aが日本を救う!


剣持 忠

株式会社メンバーズ
代表取締役

アントレプレナー

2013/07/24 13:10



みなさん、新しい雇用はどこから生まれているかご存じですか? GDPが増えても国内の雇用が創出されなければ国民の生活はなかなか豊かになりません。少し古いデータですが、1996年より前に設立された企業は2001年から2006年の5年間に310万人の雇用を減らし、1996年以降に設立された若い企業は同期間に121万人の雇用を創出しています。社歴の古い大企業や中小企業ではなく、設立5年から10年の新しい企業こそが雇用を生み出していることがわかりました。成長意欲旺盛な新たなベンチャー企業を増やさないと我が国の未来はないということです。

 

成長意欲旺盛なベンチャー企業を数多く創出するにはベンチャー企業に対する大量のリスクマネーの供給があること、すなわちベンチャーキャピタル(VC)市場が活性化していることが大切です。しかし、米国のVC市場は年間2.5兆円ですが、日本は1/20以下のわずか1,200億円しかありません。例えば、米Facebook社は未公開段階でVCから累計約2,000億円の資金調達をしていますが、我が国の年間VC市場は残念ながらFacebook1社の累計調達額よりも少ないのです。未来のgoogleやFacebookを我が国からも輩出するためにはVC市場を大きくすることが必須条件だということがわかります。

 

私はジャフコ出身なのでベンチャーキャピタリストの仲間がたくさんいます。仲間たちからは「キチンとファンドの利回りが回ればファンドに出資したい企業や富裕層はたくさんいる。しかしIPO(新規株式公開)市場も大きくないし、ベンチャーM&A市場もほとんどないのでなかなかお金が集まらない。ベンチャー企業1社に投資できる金額は大きくても数億円が限度。米国みたいに数十億や数百億円の投資などは、どんなにイノベーティブな技術やサービスであっても無理」という声が聞こえてきます。日米のIPO件数は、2001年から2011年の平均で米国が年間117社に対して、日本は同118社です。実はIPO件数は同じにも関わらず、VC市場は二十分の一しかないのです。2009年には米国でVCが介在したベンチャー企業のうち、IPOは12社だったのに対してM&Aは271社。実に20倍以上です。日本は米国に比べてIPOが少ないのではなく、ベンチャーM&A市場がほとんど存在せず、そして我が国では世界を変えるような極めて有望なベンチャー企業であっても多額のリスクマネーは投下されないのです。

 

ベンチャーM&Aが活発になるとどうなるのか。大企業や上場クラスのベンチャー企業が活発に新興ベンチャー企業と資本提携やM&Aを行うようになり、大企業がもっとスピーディーにかつダイナミックに事業開発をすることができるようになる。ベンチャーキャピタリストは、買い手側である大企業や上場クラスのベンチャー企業の欲しい技術、欲しいサービスを十分に把握し、その上でそのような技術やサービスを保有するベンチャー企業に投資したり、もしくはそのように仕向けたりするようなサイクルが生まれます。私がジャフコに勤めていた時代では企業売却は負けを意味しましたが、今は違います。「会社を売るなんてけしからん」と言う人がいますが、生涯自分がオーナーで自分の城を築きたいというある意味で小さな夢を見るのではなく、オーナーシップにはこだわらず世界を変えるようなサービスを生み出し世界に広く普及させたいという大きなビジョンを持てば企業売却もおのずと視野に入ってくるのだと思うのです。

 

ではどうすれば、我が国においてもベンチャーM&Aが増えるのか。私はこの課題に対して、社業とは別のニュービジネス協議会の理事として2つの行動をしています。一つは大企業や上場クラスのベンチャー企業の事業開発やベンチャーM&Aに携わる方々とベンチャーキャピタリスト、成長意欲旺盛なベンチャー企業の経営者の交流会”Connect!”を主宰しています。私が負担なくできる範囲でということで、3年前に私が社長を務めるメンバーズのお客さまである大企業の方達と私のジャフコ時代の仲間のベンチャーキャピタリスト達と私のベンチャー経営者仲間の交流会(飲み会のようなもの)を50名規模で開催したことが始まりです。お酒を飲みながらの方が一人の個人として接することで信頼関係が築きやすいと思ったのです。なかなか好評を頂き、徐々に参加者が増えて、今年の6月には経済産業省と組んで1,000名を超す(広告宣伝ゼロなのに)方々が参加されるまでになりました。もうひとつはM&Aの際の会計基準の変更を政府に提言することです。欧米ではM&Aの際に発生する多額ののれん代は非償却資産です。しかし、なぜか日本では20年以内の均等償却(ベンチャーの場合5年がほとんど)なのです。例えば黒字企業を買収する場合、欧米ではM&Aをすればするほど利益が増えますが、日本はのれん代償却負担が重くM&Aをすればするほど利益が減る場合がほとんどなのです。これではM&Aが増えるはずはありません。事実この会計基準を導入した2006年を境に国内のM&A件数は激減しているのです。こんなシンプルなことをなぜ気づかないのか本当に不思議ですが、我が国の会計制度は”M&Aをするな”と言わんばかりの制度です。特に純資産と買収価額のかい離が大きくなりやすい極めて将来性の高いベンチャー企業のM&Aがこの会計制度の下で実現するのは不可能に近いです。

 

私はベンチャーM&Aが活発になれば国内雇用が生まれ実体経済が循環し始めるものと確信しています。以上、私の問題提起と行動をお話させて頂きました。

 

優秀なベンチャーキャピタリストには二つのポイントがあります。一つはM&A意欲が旺盛な大企業や上場クラスのベンチャーとのパイプをキチンと持っていることです。もう一つは愛を持っていることです。投資先のベンチャー企業がビジネスプラン通りに事業が上手く回らない時にキャピタリストの姿勢は二つに分かれます。一人はなぜ上手く行かないのだと文句を言いリカバリ策を提出させるキャピタリストです。もう一人は、上手く行かない理由、どうすれば上手く行くのかということを経営者と共に考え、共に行動して、共に突破口を見出していくキャピタリストです。そんな愛のベンチャーキャピタリストのNVCCの照沼大さんにバトンを渡します。



*参考

・ACCJ「成長に向けた新たな航路への舵取り」

・VEC「2012年投資動向調査」

・湯川抗「大手ICT企業がベンチャー企業を活用するべき理由」


剣持 忠

株式会社メンバーズ
代表取締役


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